結果
○書く対象児の観察回数
※幼稚園年少クラスでは場面A全体活動導入時の着席の体系のまま昼食時に移行することが多かったため、場面@昼食時は分析対象から除いた。
※保育園は7月から8月末までは縦割り保育だったため、分析から除いた。
観察場面により相手幼児をかえるということは考えにくいため、データは観察日ごとにまとめた。
○特定の友だちの定義
本研究では連続した4回の観察のうち3回働きかけがみられた場合を、「特定の相手」とした。これは間1回に働きかけがみられなくても、それは偶然であると考えられるためである。連続した観察の間は少なくとも1週間空いたため、連続した4回は少なくとも1ヵ月にわたる。1ヵ月間の観察で毎回同じ幼児に働きかけがみられるのは、その相手が「特別な存在」だからであると考えられる。それに加え、観察者が観察を続ける中で適度な回数であると思われたため、本研究では連続した4回の観察のうち3回働きかけがみられた場合を「特定の相手」とした。ただし、幼稚園では夏期休園等の前後で1ヵ月以上の間が空いているため、その前後の観察回も連番になっているが、連続した観察とはみなさない。
まず、対象児が「特定の相手」を求め始める時期を分析した。
観察日1日のうちに1場面でも働きかけがみられた場合を“1”、働きかけが見られなかった場合を“0”としてデータをまとめた。
特定の相手をいつごろから求めるようになるのかを検討するため、働きかけ方略の発生頻度に関係なく、働きかけの有無の連続性に注目する。これは、相手幼児の反応によって働きかけ方略の発生頻度は異なってくるため、働きかけ方略の発生頻度が必ずしもその相手幼児を求める気持ちの強さと比例するとはいえないと考えられるためである。
○各対象児の結果
■ A(保育園・年少・男児)
観察全体を通して働きかけはあまりみられなかった。具体的には、K(男児)に対して9月中に2回、11月中に1回、M(男児)に対して10月中に1回みられただけであった。
*Aは、観察中マイペースな様子がしばしばみられた。他児への意識が向いていないと、他児からの働きかけにも反応が鈍くなる傾向があった。
■ B(保育園・年少・女児)
縦割り保育終了後の9月初めからはC(女児)へ、それにくわえて10月にはY(女児)へ連続して働きかけをしており、両者を特定の相手といえる。具体的には、Cへの働きかけは9月初めから11月の観察終了時まで連続してみられた。Yへの働きかけは6月観察開始時期に2回見られてからしばらくみられなかったが、10月初めから継続的にみられた。C、Y以外にも、D(男児)に対して2回、N(女児)に対して3回、I(女児)、B(女児)に対して1回の働きかけがみられた。
*Bは、自由時間中には他児との関わりよりも、1人で泥団子作りに熱中している姿がよくみられたが、観察場面では一緒に座りたい他児の名前を呼び、さらに席を確保しておくという積極的な姿がよくみられた。
■ C(保育園・年中・男児)
10月中に連続して3回O(男児)への働きかけがみられるがその後はみられなかった。その他の幼児にもまばらに働きかけはみられるが、特定の相手はみられない。具体的にはOに対して6月に2回、10月に3回、Q(男児)に対して10月・11月に1回ずつ、B(男児)に対して9月に1回、11月に2回、その他4名に対して1回ずつ働きかけがみられた。
*Cは、他児の影響を受けやすい傾向があった。着席場面でも自分から他児に働きかけるよりも、他児についていったり、すでに座っている他児のそばをうろうろし、声をかけられるのを待っている姿がよくみられた。
■ D(保育園・年中・女児)
10月初めからH(女児)とL(女児)へ連続して働きかけをしており、両者を特定の相手といえる。Hへは10月中の連続した働きかけ以降11月に入ってからは働きかけはみられなかった。一方、Lへは10月の働きかけ以降観察終了時まで働きかけがみられた。具体的には、Hに対して6月に3回、10月に3回、Lに対して10月から11月の観察終了時まで連続してみられたほか、5名に対して1〜3回の働きかけがみられた。
*Dは、観察中中心に立とうとする姿がしばしばみられた。着席場面では、他児に座る席を指示するなど、一緒に座りたい相手に積極的に働きかけていく姿がよくみられた。
■ E(幼稚園・年少・男児)
10月初めからJ(男児)へ連続して働きかけをしており、特定の相手といえる。具体的にはJに対して6月終わりに1回、10月・11月には観察終了時まで毎回働きかけがみられた。また、M(女児)、A(女児)に対して2回、他3名に対して1回ずつ働きかけがみられた。
*Eは、自己主張はあまりみられないが、他児を意識している姿がしばしばみられた。積極的に他児に働きかけていくよりも、一緒に移動したり、他児についていく姿がよくみられた。
■ F(幼稚園・年少・女児)
11月に入ってからC(女児)へ連続して働きかけをしており、特定の相手といえる。具体的には、Cに対して7月に1回、11月に観察終了時まで連続して働きかけがみられたほか、B(女児)に対して10月に2回、M(女児)に対して11月に1回の働きかけがみられた。
*Fからは、典型的な3歳児らしさをうかがうことができた。自分の感情を素直に表現し、泣いてでも希望通りにしたいという姿がしばしばみられた。
■ G(幼稚園・年中・男児)
6月当初にはJ(男児)およびH(男児)へ連続した働きかけが見られ、その時期にはこの2児が特定の相手であったといえる。しかし、その後10月以降一切働きかけはみられなかった。具体的には、J、Hに対して6月中に3回ずつ、L(男児)に対して6月中に2回の働きかけがみられた。
*Gは、ときに周囲の状況に影響されることもあったが、他児への働きかけは少なく、じっと一点を見つめている姿がよくみられた。
■ H(幼稚園・年中・女児)
10月初めからI(女児)へ連続して働きかけをしており、特定の相手といえる。具体的には、Iに対して10月初めから11月の観察終了時まで連続して働きかけがみられたほか、F(女児)に対して6月に2回、その他4名に対して1回ずつ働きかけがみられた。
*Iは、マイペースな様子がしばしばみられた。しかし、他児を気にする様子は見られ、座りたい他児についていくという働きかけがみられた。
以上、保育園の男児2名には特定の友だちは見られなかったが、他6名の対象児には特定の相手が10月ごろからみられた。
Table3 各対象児の結果 |
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<保育園> |
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年少男児 |
年少女児 |
年中男児 |
年中女児 |
対象児 |
A |
B |
C |
D |
特定の相手の有無 |
なし |
2人 |
なし |
2人 |
みられ始めた時期 |
― |
9月・10月 |
― |
10月 |
<幼稚園> |
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年男児 |
年少女児 |
年中男児 |
年中女児 |
対象児 |
E |
F |
G |
H |
特定の相手の有無 |
1人 |
1人 |
2人 |
1人 |
みられ始めた時期 |
10月 |
11月 |
6月 |
10月 |
Table4 他児への働きかけの平均(年齢) |
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6・7月の働きかけの平均(回) |
10・11月の働きかけの平均(回) |
働きかけた人数(人) |
年少 |
2.5 |
7.5 |
4 |
年中 |
5.25 |
7 |
5.75 |
保育園の男児2名を除いては、全員に特定の相手がみられた。特定の相手がみられるようになる時期は、年少児の方がやや遅いものの、特に年少児・年中児で差は見られず、両者とも10月ごろであった。その後の経過については、年中児では3名の対象児にみられた5名の特定の相手幼児のうち、3名への働きかけがみられなくなったが、年少児では全員が観察終了時まで同相手幼児への働きかけがみられた。また、保育園では縦割り保育期間に入る前、幼稚園では夏期休園に入る前の6月・7月では、年中児では他幼児への働きかけの平均が5.25回、年少児では平均が2.5回となっており、年中児では6月の観察開始当初から他児への働きかけがよくみられた。しかし年中児でも3回の働きかけがみられた対象児と7・8回の働きかけがみられた対象児もおり、その回数には個人差がみられた。
Table5 他児への働きかけの平均(性別) |
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6・7月の働きかけの平均(回) |
10・11月の働きかけの平均(回) |
働きかけた人数(人) |
男児 |
4.25 |
4.75 |
4.5 |
女児 |
3.5 |
9.75 |
5.25 |
男児では、保育園の2名の対象児には特定の相手が見られなかったが、幼稚園の対象児には特定の相手がみられた。しかし、特定の相手がみられ始める時期は6月と10月であり、その後の経過も、幼稚園の年中男児では働きかけがみられなくなったのに対して、幼稚園の年少男児では観察終了時まで働きかけがみられた。以上のように男児は対象児によって個人差がみられた。女児では、4名の対象児全員に特定の相手がみられた。特定の相手がみられ始める時期は9月から11月に固まっており、年中児に関しては2名とも10月から特定の相手への働きかけがみられた。その後の経過も保育園年中女児が2名の特定の相手のうち1名への働きかけは見られなくなったものの、残りの1名および、他の3名の対象児の特定の相手への働きかけは観察終了時までみられていた。
○用いる働きかけ方略とその使用頻度
次に対象児がどのような働きかけ方略を用いて他幼児への働きかけをおこなったのかを分析した。
Table6は対象児ごとに用いた方略の使用頻度を示したものである。各観察場面中にみられた働きかけ方略の回数を30分間の発生頻度に換算し、各対象児の全働きかけに占める割合を出したものである。
保育園年少男児・女児および年中女児は、相手の名前を呼ぶ「a.呼ぶ」方略を、幼稚園年少男児・女児は、一緒に座りたい相手と一緒に移動する「b.提案」方略を、保育園年中男児および幼稚園年中男児・女児は、自分から一緒に座りたい相手の近隣に移動する「e.移動」方略を最も高い頻度で用いていた。
○年齢差の比較
年少児では、「a.呼ぶ」、「b.提案」方略がよく用いられていた。年中児は保育園年中女児を除いて「e.移動」方略がよく用いられていた。また年少児に比べ年中児では1つの方略が50%以上を占めており、用いる方略がほぼ決まっていた。
○性差の比較
男児について、幼稚園年少男児を除く男児対象児3名は用いる方略が「a.呼ぶ」「b.提案」「e.移動」方略に限られていた。女児について、保育園年少・年中女児は「a.呼ぶ」方略、幼稚園年少女児は「b.提案」方略、幼稚園年中女児は「e.移動」方略というように、よく用いる方略はほぼ決まっているものの男児よりも多くの方略を用いていた。しかし全体的に男女差は特にみられなかった。
男児について、幼稚園年少男児を除く男児対象児3名は用いる方略が「a.呼ぶ」「b.提案」「e.移動」方略に限られていた。女児について、保育園年少・年中女児は「a.呼ぶ」方略、幼稚園年少女児は「b.提案」方略、幼稚園年中女児は「e.移動」方略というように、よく用いる方略はほぼ決まっているものの男児よりも多くの方略を用いていた。しかし全体的に男女差は特にみられなかった。