考察
○本研究の目的と結果
■ 目的
保育の区切り場面における着席行動を通して、幼児が「特定の友だち」を求め始める時期を検討すること
■ 結果
・個人差はあるものの8名中6名の対象児に特定の友だちが形成されることが見いだされた。
・時期や働きかけ方略においてはわずかではあるが年齢差・性差がみられた
<年齢差>
・特定の友だちの形成時期に年齢差は特にみられなかったが、その後年少児は観察終了時まで持続しているのに対して、年中児は持続しないものもあった
・6月・7月の他児への働きかけは年少児は年中児に比べ少なかったが、10月・11月になると大きな差はみられなくなった。
<性差>
・男児は女児に比べ個人差が大きかった
・6月・7月の他児への働きかけは女児と男児に大きな差はみられなかったが、10月・11月になると女児は男児に比べ働きかけがよくみられるようになった
○特定の友だちを求め始める時期とその特徴
<年齢差の比較>
個人差はみられるものの特定の友だちが形成されてくるのは年少児・年中児ともに10月ごろであった。
■ 年少児
10月ごろには年少児は3歳半から4歳になっている。
⇒3歳後半から4歳までに、特定の他者を意識した上で友だち関係が形成されることがあるという先行研究(Hartup,1992)の結果に類似している
■ 年中児
年中児についても特定の友だちが形成されてくるのは10月ごろ
⇒6月から7月にかけて遊ぶ相手が決まってくるという先行研究(謝,1999)と一致していない
理由@:対象児の特徴の影響
本研究の対象児は一般的な幼児を選出しているものの、着席場面における他児への働きかけに関しては、他児に比べやや働きかけが少ないと感じられる幼児もいた。そのため、本研究では対象児の特性が結果に大きく影響していると考えられる。もうひとつは研究方法および分析方法の違いである。
理由A:着目場面・分析方法等の違い
謝(1999)は、自由時間中の相互交渉に着目している ⇔ 本研究では活動間の区切り目の着席場面における働きかけの有無に着目
⇒本研究では接触の有無ではなく、限定された働きかけ方略の発生に注目しているという点で謝(1999)と異なっている。
謝(1999)は総時間に占める相互交渉の時間から仲良しの友だちを判断 ⇔ 本研究では、働きかけの連続性から特定の友だちを判断
これらのことにより、謝(1999)と本研究の結果に差異がみられたと考えられる。
■ 年少児と年中児の特定の友だちを求める質的な違い
(1)特定の友だちの持続
年少児:特定の友だちへの働きかけは観察終了時までみられた
年中児:一度特定の友だちと判断されても、その後その他児への働きかけがみられなくなる幼児もいた
(2)6月・7月の他児への働きかけの様子の違い
−6月・7月における他児への働きかけの平均は、年少児が2.5回だったのに対して、年中児は5.25回と、年中児の方が多くみられる。そして10月・11月になると、年少児は7.5回、年中児は7回となり、年少児・年中児ともに働きかけの平均回数は増加しているが、年少児・年中児の間に差はみられなくなった。
⇒年中児は観察開始当初から他児へ関心が向けられており、さらに10月・11月にはその関心は増しているが、年少児の方がその変化が著しい
年少児期における6月・7月ごろは遊びも発展しておらず、まだ他児との関わりもあまり見られない。それに対し、年中児期にはコミュニケーション能力が発達し、友だちの考えを理解したり、自分の意見を相手に伝えられるようになる。そのため年中児期の6月・7月ころはすでに他者への関心を持っているため働きかけが年少児より多くみられると考えられる。
<性差の比較>
6月・7月の働きかけの平均回数は、男児4.25回、女児3.5回と男女に差はみられなかった。しかし、10月・11月になると女児は9.75回となり男児(4.75回)の2倍にもなった。また、働きかけた他児人数の平均は男児4.5人、女児5.25人であり、男女に大きな差はない。
しかし・・・
保育園の男児2名は特定の友だちが見られず、幼稚園の男児は特定の友だちはみられたが、その形成され始めた時期およびその後の経過は両者に類似する点は見られなかったように、男児は個人差が大きい。一方、女児は全員に9月から11月のうちに特定の友だちがみられ始めた。
⇒男児に比べ女児の方が他者への関心が強く、さらにそれは広い範囲にわたるのではなく、働きかける相手はある程度限定されていると考えられる。