結 果 と 考 察

本調査は中国の大学生を対象に、中国にて行われるため、翻訳された各尺度については、下位構造を再確認するため、各尺度に対して因子分析を行い、あらためて信頼性(α係数)を検討しました。

 

一、  尺度項目の分析

 

1、   進路選択に対する自己効力感尺度

因子分析(主因子法、 Varimax回転)の結果、「情報収集」、「目標設定」、「問題解決」、「計画立案」、「適性評価」の5因子を抽出しました。α係数は.67から.81までの値を示し、十分な信頼性が得られたと考えられました。

2、   進路選択に対する結果期待尺度 

主因子法による因子分析を行い1因子構造を確認した。信頼性係数α=.60を得られました。

3、   職務内容による職業興味尺度

因子分析(主因子法、 Varimax回転)の結果、「商業美術職」、「語学職」、「現業・販売職」、「マスコミ職」、「事務職」、「教育職」の6因子を抽出した。α係数は.66から.83までの値を示し、十分な信頼性が得られたと考えられました。

 

4、   職業志向尺度

因子分析(最尤法、 Varimax回転)の結果、「人間関係」、「職務挑戦」、「労働条件」の3因子を抽出しました。α係数は.66から.83までの値を示し、十分な信頼性が得られたと考えられました。

 

二、  因子得点による男女差

 

男女差については、算出した因子得点を比較したところ、進路選択に対する効力感の男女差(Table1 2 )については、t検定の結果、男女得点差は有意ではなかった。日本において、性別と効力感の関連性を扱った研究の多くは、男性が女性よりも高い効力感をもつことを見出している。しかし、本研究の調査では、性別と効力感の間に有意な差がみられなかった。中国では、男女差別ということが社会全体に認められなかった。そのため、対象とした男女大学生の教育的背景や訓練の水準が同じ程度であると考えられる。学習経験や社会化の過程を経て自己効力感が形成、変容するというBandura(1986)の主張に従うならば、教育的背景や社会化のプロセスが類似している男女は同程度の効力感を発達させることができるだろう。

結果期待の認知(Table1 2 )についても、男女の間に有意な差がみられなかった。職業選択に対する効力感のレベルは男子に劣らない女子大学生が、結果期待への見通しは男子と同じ程度と考えられる。男女平等という社会背景の下で男女雇用機会均等、就職後昇進での女性に対する差別的取扱いは禁止されている。女性は必要な能力や知識を身につけると、男子との待遇差が克服できる。これらの実情を踏まえると、結果期待の概念を取り入れ検討することで、中国大学生の進路発達における男女差を説明することができないかもしれない。

 

Table1 2 進路選択に対する自己効力感と結果期待尺度の男女別の平均値とSDおよびt検定の結果

 

男性(N=150)

 

女性(N=134)

t

 

平均

SD

 

平均

SD

情報収集

3.01

0.51

 

2.96

0.58

0.78

 

進路選択

2.93

0.52

 

2.75

0.56

2.74

 

問題解決

3.22

0.48

 

3.01

0.56

3.38

 

計画立案

2.87

0.63

 

2.86

0.63

0.08

 

適性評価

3.16

0.56

 

3.08

0.60

1.10

 

結果期待

3.08

0.47

 

3.13

0.57

0.88

 

 

 

職業興味の男女差(Table1 3 )については、現業・販売職には、女性より男性のほうが高い興味得点を示す。Hackett&Betz(1981)は、女性としての性役割社会化を受けた女子学生は、男性的領域における自己能力を低く認知するために、能力や可能性が十分に発揮されないことを指摘している。こうした点から考えると、男性的領域における現業・販売職については、やはり男性のほうが高い興味傾向を示しと考えられる。女性的領域における語学職、マスコミ職、事務職、教育職については、やはり女性のほうが高い興味傾向を示しと考えられる。

 

 Table1  3 職業興味尺度の男女別の平均値とSDおよびt検定の結果

 

男性(N=150)

 

女性(N=134)

t 値

 

平均

SD

 

平均

SD

商業美術職

2.41

0.65

 

2.52

0.68

1.47

 

語学職

2.54

0.70

 

2.91

0.65

4.56

***

現業・販売職

2.63

0.58

 

1.93

0.64

9.78

***

マスコミ職

2.19

0.64

 

2.36

0.53

2.36

*

事務職

2.47

0.59

 

2.65

0.59

2.62

**

教育職

2.36

0.62

 

2.59

0.59

3.20

**

*p<.05  **p<.01  ***p<.001

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

職業志向性の男女差(Table1 4 )については、人間関係志向は、男性よりも女性のほうが得点高い。人間関係を重視する傾向は女性特有の特徴と考えられる。労働条件志向は、男性よりも女性のほうが得点低い。これは、女性の就職難しいさと関連すると考えられる。

 

Table1 4  職業志向尺度の男女別の平均値とSDおよびt検定の結果

 

 

男性(N=150)

 

女性(N=134)

t

 

 

平均

SD

 

平均

SD

 

人間関係

4.42

0.64

 

4.66

0.40

3.73

***

職務挑戦

4.17

0.64

 

4.23

0.61

0.80

 

労働条件

4.24

0.74

 

3.95

0.59

-3.73

***

  ***p<.001

 

 

 

 

 

三、  因子得点による学年差

 

学年については、算出した因子得点を比較したところ、進路選択に対する自己効力感は、4年生が1年生より高い傾向を示している(Table1 5 )。Betz&Schifano(2000)の研究によると、効力感の認知が仕事活動を直接的・間接的に体験したり、自己の能力や適性について再評価したり、あるいは将来の見通しを現実に即した形で予測する、こうした個人の認知を修正・変容させるような働きかけも進路に対する効力感や結果期待の育成に有効な影響力をもつ。

就職活動の一環として行われている社会実践研修やOB訪問など仕事領域の活動を間接体験するような諸活動、広い意味では効力感の形成に意味ある役割を果たすと考えられる。これより、仕事内容に関連した社会実践活動に焦点をあてた、教育的指導による働きかけが進路発達に有効な方策となるかもしれない。

結果期待には、学年間で有意な差が認められず、入学後約2か月余とまもない1年生は4年生に比して、何を職業として選択すべきかについてまだはっきりとした展望はな、就職の決断を先延ばしにする傾向が強いことがわかる。

 

Table1 5 自己効力感と結果期待の因子得点の平均値、SDおよび学年差の検定結果

 

一年生(N=69)

 

四年生(N=75)

t

 

平均

SD

 

平均

SD

情報収集

2.94

0.56

 

3.07

0.58

1.32

*

目標設定

2.84

0.47

 

3.04

0.53

2.45

*

問題解決

3.04

0.56

 

3.23

0.54

2.11

*

計画立案

2.77

0.59

 

3.09

0.64

3.09

**

適性評価

3.12

0.60

 

3.22

0.59

0.98

**

結果期待

3.09

0.51

 

3.16

0.56

0.70

 

*p<.05  **p<.01 

 

 

 

 

 

 

職業興味については、有意な学年差(Table1 6 )がみられなかった。興味と学年間に関連していないと考えられる。大学生自身の社会経験と個人のパーソナリティなどは興味へ強い影響を及ぼすと考えられる。

 

Table1 6 職業興味尺度の因子得点の平均値とSDおよび学年差の検定結果

 

一年生(N=69)

 

四年生(N=75)

 

平均

SD

 

平均

SD

商業美術職

2.57

0.62

 

2.38

0.70

1.75

語学職

2.64

0.71

 

2.76

0.72

1.08

現業・販売職

2.53

0.68

 

2.06

0.68

4.16

マスコミ職

2.35

0.51

 

2.23

0.60

1.23

事務職

2.73

0.63

 

2.46

0.55

2.73

教育職

2.54

0.59

 

2.38

0.64

1.50

 

職業志向性の学年差(Table1 7 )については、4年生のほうが有意に高い傾向をみせている。理由としては、就職がまだ現実的な問題になってない1年生には、職業に何を求めるかということについて具体的目標がなく、4年生になって就職が現実の問題となると、職業に求めるものが明確化されていくと考えられる

 

Table1 7 職業志向尺度の因子得点の平均値とSDおよび学年差の検定結果

 

 

一年生(N=69)

 

四年生(N=75)

t

 

 

平均

SD

 

平均

SD

 

職務挑戦

4.33

0.58

 

4.17

0.67

1.55

***

労働条件

4.01

0.72

 

4.22

0.67

1.85

**

人間関係

4.52

0.54

 

4.48

0.64

0.39

**

  **p<.01  ***p<.001

 

 

 

 

 

四、自己効力感尺度・結果期待尺度・職業志向尺度と職業興味尺度の関連

 

結果期待が職業興味に及ぼす影響を見られなかった(Table1 8 )。これは、結果期待尺度の下位尺度は一つしかないと関連するかもしれない。進路選択に対する自己効力感は、職業興味に影響しているが、ただし、そのなか、目標設定効力感といずれかの職業領域の間に関連性を見られなかった。職業志向性は職業興味に対して影響力を有していた。各尺度の間に関連性については、明確化は十分とはいえない。今後、尺度項目を吟味し、調査対象を拡大しての再検討を要する。

 

Table1 8  自己効力感尺度・結果期待尺度・職業志向尺度と職業興味尺度との関連重回帰分析の結果

説明変数

                  目 的 変 数  (N=284)

商業美術職

語学職

現業・販売職

マスコミ職

事務職

教育職

情報収集

0.088

 

0.126

 

0.094

 

0.132

0.182

*

0.004

 

目標設定

-0.022

 

0.025

 

0.088

 

-0.008

 

-0.095

 

-0.034

 

問題解決

0.141

-0.108

 

0.182

*

0.082

 

0.011

 

0.115

 

計画立案

-0.058

 

0.053

 

-0.089

 

0.091

 

0.155

*

0.042

 

適性評価

0.102

 

0.040

 

0.012

 

-0.090

 

-0.155

*

-0.044

 

結果期待

0.006

 

0.024

 

0.052

 

-0.056

 

0.055

 

0.103

 

人間関係

-0.106

 

0.042

 

-0.283

***

-0.189

**

-0.097

 

-0.085

 

職務挑戦

0.070

 

0.110

 

0.221

**

0.098

 

0.100

 

0.129

労働条件

0.151

*

0.125

0.021

 

0.218

**

0.200

**

0.036

 

0.071

*

0.100

***

0.143

***

0.089

**

0.116

***

0.048

***p<.001 **p<.01 *p<.05 p<.10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五、 専攻別にみた職業興味の特徴

 

専攻分野別に9つの下位グループの傾向を見るために、職業興味の下位尺度ごとに1要因分散分析を行った(Table1 9 )。また、下位群間の平均値を下位検定によって検討した。商業美術職では、情報工学と医学技術学院専攻グループの得点がそのほかの専攻より高い。語学職では、外国語学院と人文学科の得点が一番高い、それ以外全ての専攻グループの得点差は明確ではない。現業・販売職では、機械工学、情報工学グループの得点がほかのグループより高い)。マスコミ職は、分散分析の結果は有意ではなかった。そして、グループ間の差は明確ではない。事務職では、会計グループの得点がそのほかの専攻より高い。教育職では、教師教育グループの得点が一番高い。それぞれの職業興味は、大学における専攻分野にほぼ対応しているといえる。中国の大学生は、学校で身に付ける知識や教養と職業が直接関連すると考えられる。

 

 Table 9  専攻グループ別にみた職業興味尺度の専攻別平均値と分散分析の結果

 

 

 専  攻

N

商業美術職

語学職

現業・販売職

マスコミ職

事務職

教育職

計算機  (情報工学)

50

2.60

 

2.71

 

2.59

 

2.25

 

2.68

 

2.51

 

教師教育 

36

2.34

 

2.64

 

2.04

 

2.37

 

2.62

 

2.73

 

機械工学

53

2.58

 

2.58

 

2.73

 

2.31

 

2.42

 

2.48

 

外国語学院

31

2.27

 

3.13

 

1.52

 

2.32

 

2.54

 

2.26

 

能動学院(建築環境) 

34

2.29

 

2.57

 

2.46

 

2.05

 

2.44

 

2.35

 

会計 財経

33

2.56

 

2.70

 

2.04

 

2.26

 

2.99

 

2.53

 

材料科学(金属、分子素材)

23

2.43

 

2.58

 

2.57

 

2.18

 

2.28

 

2.25

 

医学技術学院 (医学検験)

18

2.67

 

2.97

 

2.07

 

2.38

 

2.36

 

2.70

 

人文学科 

6

1.96

 

2.97

 

1.90

 

2.52

 

2.24

 

2.11

 

1要因分散分析(F値)

 

2.05

*

2.45

*

14.76

***

1.08

 

4.61

***

2.52

**

*p<.05  **p<.01  ***p<.001

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六、 家庭の要因と職業興味との関係

 

大学生の職業興味規定要因としては、父親の学歴が重要である。父親が高学歴であるほど、本人のマスコミ職と語学職に対する興味が高まる傾向が見出された。ただし、事務職に対する興味は、父親の学歴が高校卒のグループで最高であった。他の規定要因として父親の職業が調べられたが、父親の職業が公務員のグループで教育職への興味が高く、自営業・その他のグループで商業美術と現業・販売職に対する興味が高まる傾向が見出された。しかし、母親の学歴、母親の職業については、有意な結果は得られなかった。

 

 

 

                   

  ▲ 方法      今後の課題