問 題 と 目 的
中国においては、1990年代に入ってから、経済の発展により、社会全体の高度な技術者及び高度な専門職への需要が急速に上がり、大学への要請が次第に高まるようになってきた。この状況の下、政府は1998年に大学教育の拡大政策を打ち出した。進学率は1998年の9.8%から、2003年17%まで上昇している。進学率の上昇により、2001年以来大学卒業者の数も毎年27%ずつ増加を続け、2006年までの5年間でその数は3倍となった。しかし、卒業生が年々増加している中、就職状況も厳しくなっている。国家発展改革委員会が発表した「2006年大学卒業生の就職指導書」によれば、1990 年代後半、大学生の就職率が 90%を超えていたが、2006年が、就職率は70%にしか達していなかった。
大学生がスムーズに就職できるように、政府の指導のもとに、2000年頃から、各大学は、「就職指導課」を設置し、それを中心とする就職支援活動を行っている。しかし、現実には、その指導活動は採用情報の提示や面接の対策のような活動にとどまり、職業選択に対する個人の能力や興味と職業の関連づけを促すような心理的な指導や介入の支援もほとんど行わなかった。そのため、大学生を取り巻く進路選択が社会問題になっている。
大学生の進路発達過程を解明するにはたくさんの実証研究が必要であると考えられる。そこで、本研究は、中国の大学生に研究対象としてLent, Brown & Hackett(1994)社会・認知的進路理論にもとづく、進路選択に対する自己効力感、結果期待、職業興味と職業志向性の変数を用いて、学年別と男女別の違いを明らかにし、進路選択に対する自己効力感、結果期待が職業興味に及ぼす影響について検討することを第1の目的とする。また専攻分野は職業興味と一定の関係にあるかどうかを考察する。そして、職業興味が両親の学歴・職業といったデモグラフィック要因とどのような関係にあるかを検討することを本研究における第2の目的とする。今日の中国における大学就職指導支援体制改善への取り組みに対して、基礎的な情報や資料の一助となるだろう。