考察
本研究の結果、従来の異性との相互作用における緊張・苦手意識という側面だけをとりあげた異性不安だけでなく、
コミュニケーション不安、魅力不安、理想不安、性差不安という新しい異性不安の側面が示唆された。
また、性役割意識と異性不安との関連において、
男女ともに、性役割意識が異性不安を予測することが明らかになった。
また、性役割意識だけでなく、女性においては自身の性を受容している人は、
異性不安が低いことが明らかになった。
異性不安尺度について
異性不安を「緊張・苦手意識」という抽象的な内的経験だけでなく、
異性との相互作用における具体的な悩みや不安を多様な側面から捉えることによって、
青年期における異性との相互作用に伴う不安を概観することが可能になるとともに、
治療的介入や教育においても活用することができるだろう。
コミュニケーション不安に関しては、
ソーシャルスキルの面からもアプローチできるが、
対人不安とは違うという点から考えると、緊張・苦手意識と同様に、
不安を生起させる原因や不安に関連する要因を探求する必要がある。
性役割意識と関連のある魅力不安や理想不安、性差不安に関しては、
認知的なアプローチから不安を低減することが可能になるかもしれない。
性役割意識と自身の性の受容について
本研究でのM-H-Fscaleの役割は、現代の青年の性役割意識を明らかにすることではなく、
一体何が性役割意識なのかわからない現代において、青年がどれだけ伝統的性役割意識を有しているのかを測定することである。
現代の青年は、もはや明確な男性性、女性性、人間性をもつことが性役割同一性を獲得することにつながるのではなく、
性役割意識はより抽象的な漠然とした感覚であり、自身の生物学的性にたよるところが大きいのかもしれない。
また、女性においては自身の性を受容していると、
緊張・苦手意識以外の全ての異性不安の側面が非受容の人に比べて低いことが示唆された。
これはジェンダー・アイデンティティの状態と強く関連していると考えられる。
つまり、自身の性を受容している者は、ジェンダー・アイデンティティの確立段階に近い状態にあり、
より健康で適応的であると考えることができる。
男性において、自身の性の受容と異性不安の関連が見られなかったことに関しては、
性差の問題から捉えることができるかもしれない。
伊藤(2001)は青年期女子の性同一性の発達の研究において、女子青年における性の受容の重要性を示唆している。
女性における性の受容は、第二次性徴に伴う性的成熟と身体的変化をうまく受け入れることができるか否かが
大きく関連していると示唆している。それ故、女性は男性よりも自身の性の受容が社会的適応と強く関係しており、
異性不安という側面においても影響を与えていると考えられる。
性役割意識と自身の性の受容について
男性では、女性への人間性評価と女性性評価が異性不安を予測することが明らかになった。
人間性評価は伝統的性役割意識とは違い、性別に関係なく人間を評価するという姿勢が感じられる項目であるため、伝統的性役割意識にとらわれていないという人間像が想像できる。
そのため、異性不安が低くなると考えられる。
男性は女性への女性性評価が高いと性差不安、魅力不安、異性不安総合得点が高くなる傾向が示唆された。
伝統的女性性役割を高く意識することは、現代の女性の姿とは異なるため、
現代の女性に対しての理解が進まず、その結果性差不安を感じるという過程が考えられる。
しかし、異性不安と性役割意識の関連を考える上で重要な視点として、
今までの異性との相互作用経験の量があげられる。
本研究では、過去の異性との相互作用経験を量的に測っていない。
特に、性差不安は異性との相互作用経験の量が影響する可能性が高い異性不安と考えられる。
今後はこの視点をふまえ、異性との相互作用経験が少ないために異性に対して
現実にそぐわない伝統的性役割意識を有し、性差不安を感じるという可能性を検討する必要がある。
女性でも、男性の人間性評価が高いと異性不安が低いという関係が見られ、男性と同様の過程が考えられる。
しかし、2要因分散分析の結果からは人間性評価が高いほど、異性不安も高いという結果が出ている。
これは、理想不安という異性に対する理想が高いことによって生じる不安であるため、人間としての魅力を高く意識することによって、
理想の高さから現実に対して不安を感じるという過程が考えられる。
女性において、伝統的女性性役割を高く意識することが、様々な異性不安に結びつくということは、
やはり伝統的性役割は今や適応の指標ではなく不適応の指標として機能している可能性を示唆していると考えられる。
自身の性の人間性を高く評価することが、コミュニケーション不安と理想不安、
異性不安総合得点における不安を低めていた。
この結果から、女性の、自身を伝統的女性性役割に縛られない一人の人間として
アイデンティティを築くことで、不適応的になることを回避しているという可能性が示唆される。
以上から、男女ともに伝統的女性性役割を高く意識することが異性不安と結びつきやすいこと
が示唆された。しかし、その背景には、お互いに結婚相手という将来的な展望を含んだ目で異性を見ているため、
伝統的性役割意識を意識せざるをえないという状況も考えられる。
また、伝統的性役割意識にとらわれず、同じ人間という視点で異性を捉えることが
異性との相互作用において重要であることが明らかになった。
この結果は、松岡・秋葉(2003)の「青年にとって異性友人関係とは男女ともに
性役割が強調されるような関係ではなく、性役割つまり社会的に自分の性について望ましいとされている性質や
行動に影響されることなく振る舞い、人間性によりお互いに関係が上手くいくようによい気遣いをし合える
関係である」という考察を支持するものであり、人間性評価の視点を持つことが、
異性とのよりよい相互作用における第一歩であると考えられる。
結果
今後の課題と展望
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