方法 


1.対象児

2.実験場所

3.実験材料と手続き

  (1)空想/現実の区別課題

  (2)登場人物への名前付け課題


1.対象児

T市内の保育園に通う園児。計43名。年齢により2つの群に分けた。

4歳児群(3歳児クラス)20名 (男児 7   女児13名 平均年齢:43ヶ月)

6歳児群(5歳児クラス)23名 (男児11名 女児12名 平均年齢:6)




2.実験場所

保育園施設内の個部屋。

3.実験材料と手続き

実験の実施に先立ち、対象児と十分なラポートをとるように心がけた。

また、実験に使用する絵本に対象児の関心を向けさせるため、各クラスにおいて、実験を実施する12日前、クラス単位で保育士に実験に使用する絵本を読み聞かせてもらった。

実験課題は(1)空想/現実の区別課題、(2)登場人物への名前付け課題の順で実施した。所要時間は1015分程度であり、対象児の反応を観察するため、すべての実施においてビデオ録画を行った。




(1)空想/現実の区別課題

材料

課題に用いるイラスト計8枚は、すべて四つ切画用紙に貼り付けて使用した。イラストの描写内容については、SamuelsTaylor(1994)に従い、その描写場面における、@現実性(現実に起こりそうか)の高−低の水準、A感情喚起性(どれくらい恐ろしく、感情を揺さぶられるか)の高−低の水準、の2つの水準により4つのグループ(現実性H-感情喚起性Hの内容/現実性H-感情喚起性Lの内容/現実性L-感情喚起性Hの内容/現実性L-感情喚起性Lの内容)に分類した。イラストの選別については、大学の学部生20名に、筆者が用意した絵本のイラスト30枚を提示し、現実性、感情喚起性の各水準において、1(低い)7(高い)の得点で評定をしてもらった。その結果から、各水準の評定の平均得点が高い(低い)組み合わせのものを中心に各内容グループ2枚ずつに絞り込んだ。その際、幼児が内容を簡単に理解できるものであるかについても考慮をした。特にイラスト4については、評定得点は高いイラストではあったが、幼児の視点から見て内容を理解する点で、妥当ではないと判断し使用を控えた。

回答例示用のイラストには、対象児にとって身近な内容であること、後の課題での子どもたちの回答へのヒントにならないことを考慮した結果、少年が屋根の辺りまで積木を積んでいく場面のイラスト計4枚を用いた

さらに、回答の例示後の対象児の回答練習用イラストとして、評定を実施したイラストの中から、子どもたちに身近な空想的存在であるおばけのイラストを選択した

また、回答の際に使用する○×の札は、『()大創産業 ザ盛り上げグッズ Party goods プラ製プレート』に○×を描いた画用紙を貼り付け作成したFigure1参照)



Figure1 空想/現実の区別課題の回答に用いた○×の札

手続き

対象児に、「今から○×ゲームをします。今からお兄さんがルールの説明をするね。」と伝え課題の説明を始めた。まず、回答例示用のイラスト(少年が積木を積んでいる場面)4枚を順番に提示しながら、紙芝居形式で絵の様子を示した。そして、イラストに描写された少年を指しながら、「この男の子、たくさん積み木を積んでいるね。こんなにたくさん積んでいるけど、本当にこんなにたくさん積めると思う?」と対象児にたずねた。対象児が反応を示したら、○と×がそれぞれ描かれた札を見せ、「△△ちゃんは、積める(積めない)と思ったんだね。そうしたら、△△ちゃんは○(×)を出します。反対に積めない(積める)と思ったら×()を出します。これから、色んな絵がたくさん出てきます。本当に起きたっておかしくないと思ったら、。いや、本当に起きたらおかしいよと思ったら、×って答えてね。」と、○×の札で実演しながら伝えた。

回答の例示を示した後、回答練習用のイラストを提示し回答を練習した後、課題用のイラスト8枚を提示した。すべてのイラストについて以下の手続きをとり、課題用イラストについてはランダムに提示した。まずイラストを見せながら、「これは、何をしているところかな?」と声をかけ、対象児がイラストの内容を理解できているかを確認した。次に、「この絵は本当に起きたっておかしくないかな、本当に起きたらおかしいかな?△△ちゃんはどっちだと思う?」と対象児に質問をした。対象児がなかなか決められない場合、イラストの説明を加えながら、できるかぎり1つの回答に決まるまで促した。対象児が回答をした後、「どうしてそう思ったの?」と対象児に理由をたずねた。



(2)登場人物への名前付け課題

材料

登場人物への名前付けに対する反応課題に用いる絵本は、各年齢群の間で、絵本に書かれている文字を読むことができるかどうかに差がみられることを想定し、空想/現実の区別課題に用いるイラストと同様、絵本はすべてのイラストのみを四つ切画用紙に貼り付け、紙芝居形式に作り変えたものを使用した。

課題に用いる絵本は、感情喚起の要因、空想的な内容を含むことはもちろんのこと、どの年齢群の対象児にも、内容がしっかりと理解でき、なおかつ絵本の内容に強い興味をもって絵本に集中もらうことが必要であった。そこで、指導教員との協議の結果、2冊の絵本を用意した。

実験を実施する前、その2冊のうちのどちらを使用するか、また絵本のどの場面で名前付けを行うかを決定するため、予備実験を行った。予備実験では、6歳群の対象児各23名に対し、本実験と同様の手続きをとりながら、内容への理解と絵本への集中、名前付け場面での反応を観察した。結果、『2006 ステファニー・ブレイク 作・絵 ふしみ みさお 訳「オオカミだー!」PHP研究所』を本実験で用いることとした。この絵本は、うさぎの子どもシモンが、「オオカミだー!」と言ってみんなをおどかしていると、ある日本当のオオカミがやってきて大慌てになる。そして、シモンはオオカミに捕まるのだが、そのオオカミは実はシモンのお父さんが変装していたというお話である。


 手続き

まず、空想/現実の区別課題の感想を対象児にたずねながら、「ゲーム頑張ってくれたから、お礼にお兄さんが絵本を読んでおしまいにするね。」「今日は絵本を紙芝居にしてきました。」と伝え、絵本を読み始めた。対象児の反応をひろいながら絵本を読み進め、あらかじめ決めておいた場面(オオカミがうさぎの子どもシモンの耳を手でつかみ捕まえているところ)で、実験者は絵本に描かれている登場人物を指さしながら、「あっ、これ△△ちゃんじゃない。」と真剣な表情で声をかけ、そのときの対象児の反応を、約3秒間観察した。その後、対象児の反応に応じてTable1に示すような手続きを行った。

観察後は、最後まで絵本を読み終え終了とした。絵本の読み聞かせ終了後、@「保育園の先生に読んでもらったことあるかな。」という絵本読みの記憶の質問、A「今読んだ絵本をお家で読んだことがあるかな。」という絵本読みの経験の質問、B「これ△△ちゃんと言われたとき、どんな気持ちだった。」という感情質問、C「どうして××な気持ちがした。」という感情の理由についての質問、の4つを対象児にたずねた。感情質問については、子どもが回答できなかったり、あいまいな感情を報告したりした場合、「怖い気持ちがしたかな、嫌な気持ちがしたかな、楽しい気持ちがしたかな。」と選択肢をランダムに提示したずねた。また、絵本の経験、記憶の2つの質問の順番についてもランダムに実施した。最後に、「でもこれ(登場人物)は、△△ちゃんじゃないよね。」という確認を行い、名前付けは実験者の誤りであったことを再度対象児に示し、実験終了とした。



                         Table1 名前付け後の手続き

     手続き              「あっ、これ△△ちゃんじゃない。」     1回目の名前付け
                         約35秒間、1回目の反応を観察
                    肯定        無反応         否定
                     ↓           ↓           ↓
                       「これ、△△ちゃんじゃない。」      2回目の名前付け
                      約35秒間、2回目の反応を観察    
                    肯定        無反応         否定
                                      ↓
                 「どうして。」                       「どうして。」  理由の確認
                                       
                  「違うよね、お兄さんが間違えたよね。ごめんね。」 


    反応基準  肯定:うなずく。「うん。」などの肯定的な発言がみられる。
            否定:首を横に振る。「ちがう。」などの否定的な発言がみられる。



問題と目的       結果