結果
1.空想/現実の区別課題
回答の分析
回答の理由付けの分析
2.登場人物への名前付け課題
名前付け時の反応の分析
−言語・行動反応−
−表情反応−
−反応に対する理由付け−
感情質問の分析
−感情質問の回答−
−感情の理由付け回答−
3.空想/現実の区別課題と登場人物への名前付け課題の関連
空想/現実の区別課題の正答数と、登場人物への名前付け課題での表情反応、感情回答と理由付け回答との関連の分析
空想/現実の区別課題の理由付け回答と、登場人物への名前付け課題での表情反応、感情回答と理由付け回答との関連の分析
4歳児群18名、6歳児群22名について分析を行った。
対象児の回答については、現実性Lのイラストについて現実には起こりえない(×)とした場合、現実性Hのイラストについて現実に起こりえる(○)とした場合、をそれぞれ正答とした。正答数の平均値と標準偏差を算出したところ、4歳児群はM=4.3、SD=0.7であり、6歳児群はM=4.5、SD=1.4であった。 全イラストの合計平均正答率については、4歳児群54.1%(18名)、6歳児群56.8%(22名)であり、年齢間で大きな差はみられなかった。各イラスト条件別の平均正答率はFigure2に示すとおりである。 イラスト条件別の正答数について、年齢(4歳児群、6歳児群)×イラスト条件(現実性H-感情喚起性H、現実性H-感情喚起性L、現実性L-感情喚起性H、現実性L-感情喚起性L)の2要因分散分析を行った。結果、イラスト条件の主効果が有意であった(F(3,36)=17.60,p<.01)。多重比較の結果、現実性が高いイラストにおいては、感情喚起の要素が含まれないイラストの方が多く正答しており、現実性が低いイラストでは、反対に感情喚起の要素が含まれるイラストの方が多く正答していることがわかった。 課題では、対象児が回答をした際に、「どうしてそう思ったの。」という回答の理由付けについても併せてたずねている。 回答の理由付けについては、知識・経験、空想‐現実、感情、夢、絵の事実、絵の部分、説明なし、その他、のいずれかに分類した。それぞれの分類の指標については、Table2に示す通りである。そして、年齢群を込みにし、全理由付け回答の分類の結果を示したものがTable3である。なお、理由付けの回答率は、4歳児群で50%、6歳児群で88.1%であった。ここから6歳児の方が何らかの理由付けを行なっていた回数が多い様子が伺える。
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4歳児群20名、6歳児群21名について分析を行った。 また、絵本読み後に、絵本読みの記憶の質問、絵本の経験の質問を行った結果、全対象児41名中3名が保育士に絵本を読んでもらったことがないと答え、全対象児41名中4名が、家庭で今回の課題で使用した絵本を読んだことがあると答えた。絵本を保育士に読んでもらったことがないとした幼児は、その場に居合わせず実際に絵本を読んでもらえなかったものもみられたようであるが、これら絵本に対する経験に差がみられる幼児はわずかであったので、これらの幼児も対象児に含めて分析を行なっている。
名前付け時の対象児の反応について、言語・行動反応、表情反応の2つから分析を行なった。これは、言語・行動の面に現れる幼児の様子と表情の面に現れる幼児の様子には、ズレがある場合もあると考えられるからである。 −言語・行動反応− 名前付け時に対象児がどのような言語・行動反応を示したかについて、ビデオ記録をもとに、4つのカテゴリーに分類した。 @ 肯定:うなずく、「うん。」などの名前付けを肯定するような言語反応がみられる。 A 否定:くびをよこにふる、「ちがう。」「うさぎ。」などの名前付けを否定するような言語反応がみられる。 B 無反応:大きな反応はみられない。 C その他:無反応ではないが、肯定・否定もみられない。 行動反応については、上記のカテゴリーの基準をもとに、ランダムに選んだ対象児20名について独立した2人の評定者がビデオ記録をみながら、どのカテゴリーにあてはまるかを評価した。一致率は90%であった。評価が不一致だったものについては両者が協議した上で再評価を行った。ここで十分な一致率が得られたため、残りの対象児に関しては、評定者が評定を1人で行った。 各年齢群の言語・行動反応の結果を示したものがTable4である。なお6歳児群のその他反応については、明確な肯定・否定反応がみられなかったものと併せて、絵本の説明など、話をし始めた幼児が含まれている(これについては全施行中4回みられた)。
言語・行動反応について、年齢間で各反応の出現度数の合計に差がみられるか直接確率法を行った。結果、年齢間で有意な差がみられ(p<.01)。多重比較の結果、4歳児群では肯定反応が多くみられ、6歳児群では無反応、その他反応が多くみられることがわかった(p<.05)。ここでの4歳児群の肯定反応については、実験者の名前付けに対して促されるようにうなずく行動反応がみられる傾向にあった。一方で、どちらの年齢群も名前付けに対して否定する幼児が多い傾向は共通している(4歳児群:80%,6歳児群:69%)。 −表情反応− 名前付けの前や名前つけ時に対象児がどのような表情を示したかについて、ビデオ記録をもとに2つのカテゴリーに分類した。なお表情反応は、1回目の名前つけの前、1回目の名前つけの後、2回目の名前つけの前、2回目の名前付けの後の4つのポイントで観察を行った。 @ 笑顔反応あり:名前付け時に笑顔がみられた。 A 笑顔反応なし:名前付け時に笑顔がみられなかった。 笑顔反応についても、上記のカテゴリーの基準をもとに、ランダムに選んだ対象児20名について独立した2人の評定者がビデオ記録をみながら、どのカテゴリーにあてはまるかを評価した。一致率は 88.8%であった。評価が不一致だったものについては両者が協議した上で再評価を行った。ここで十分な一致率が得られたため、残りの対象児に関しては、評定者が評定を1人で行った。なお、4歳児群1名の幼児の、1回目の名前付け時の表情についてはビデオ記録から評定することができなかった。よって、4つのすべての表情反応が必要な分析についてはこの幼児1名を対象児から除外し、4歳児群19名として分析している。 まず、各年齢群のすべての名前付け施行における、名前付けの前と名前付けの後の表情反応の傾向をみたものがTable5である。
4歳児群では名前付け前に笑顔なしの状態からそのまま笑顔なし(35.9%)、6歳児群では名前付け前に笑顔の状態からそのまま笑顔反応(52.4%)という傾向が、他の群と比較してやや多くみられるようであった。しかしながら、名前付け前に笑顔の状態から、名前付けによって笑顔がみられなくなる幼児は、両年齢群ともに1人もみられなかった。 次に、各4つの表情反応の観察ポイント(1回目の名前付けの前、1回目の名前付けの後、2回目の名前付けの前、2回目の名前付けの後)について、年齢群において笑顔反応がみられたかどうかに差があるか直接確率法を行った。その結果、観察ポイントにおいて有意な差はみられなかった。 さらに、名前付け後の表情反応2回のうちで、各年齢群において笑顔反応がみられた回数に差があるかをみたものがTable6である。
2回の名前付けの施行のうち、1回でも笑顔反応がみられたものの人数は、4歳児群で19名中13名(68.4%)、6歳児群で21名中18名(85.7%)であった。6歳児群のみに注目すれば笑顔反応が多くみられるように思われるが、直立確率法を行った結果、年齢間で笑顔反応の回数に有意な差はみられなかった。傾向として、どちらの年齢群も笑顔反応が比較的見られたといえる。 名前付け時の反応のあとの、実験者の「どうして。」という理由付けの質問に対して幼児がどのように回答しているかを4つのカテゴリーに分類した。 @ 動物:登場人物は動物であると理由付ける(「うさぎやもん。」) A 身体特徴:登場人物と自分の身体特徴の違いで理由付ける(「だって○○ちゃん、お耳みじかいよ。」) B 絵本内容:絵本内容から理由付ける(「オオカミ来やん。」) C その他:いずれにもあてはまらない(「だってさぁ、あんまり怖くないもん。」) その結果を示したものがTable7である。4歳児群で18人、6歳児群で15人が反応に対する理由付けを行ったことになる。また、すべての理由づけは否定的な言語・行動反応のあとにされていた。
−感情質問の回答− 絵本読み聞かせ後の、実験者の「これ△△ちゃんと言われたとき、どんな気持ちだった。」という感情質問に関する対象児の回答を、3つのカテゴリーに分類した。 @ ポジティブ感情:「楽しかった。」、「面白かった。」などの回答がみられる。 A ネガティブ感情:「嫌だった。」、「怖かった」など。の回答がみられる。 B ニュートラル感情:「へんやった。」、「ふつう。」などの回答がみられる。 この基準をもとに、対象児の感情質問の回答を分類したものがTable8である。 各年齢群において、それぞれの感情の回答に差がみられるかどうか直接確率法を行ったが、有意な差はみられなかった。6歳児群のみに注目すれば、ポジティブ感情を示した幼児が比較的多くみられるように思われる。 また、ネガティブ感情の種類の内わけにおいて、4 歳児群の9名中5名は怖いという感情を示し、残りの4名は嫌だという感情を示していた。一方、6歳児群の5名は全員が嫌なという感情を示しており、怖いという感情を示す幼児はみられなかった。このネガティブ感情の種類の内わけについて、年齢間で差がみられるか直接確率法を行った。結果、内わけの差に有意傾向がみられた(p<.10)。 −感情の理由付け回答− 感情質問の後の、実験者の「どうして××な気持ちがした。」という感情の理由付けついての対象児の回答をカテゴリーに分類した。 @ 名前付け:名前付け、名前の違いについて言及(「違うと思った。」「いわれると恥ずかしいもん。」) A 絵本読み:絵本を読んだことについて言及(「お話読んだから。」) B 絵本内容:絵本の内容についてまで言及 (「オオカミが来るから。」「怖いのが出てきたから。」) C 言及なし:明確な言及が得られなかった(「わからん。」「そう思ったから。」) このような基準をもとに、対象児の感情の理由付けの回答を、感情質問のカテゴリー別に分類した。なお、評定の際、名前付けと絵本内容の両方に言及していたものが、4歳児群の中で4名いた。これについては、本課題の質問が名前付けについてであるのに対して名前付けへの言及がでることはある程度予測できることであり、そこから絵本の内容にまで言及を行ったことの方が本研究での対象児の回答としては意味合いが強いと解釈した。よってこの4名については、B絵本内容のカテゴリーに分類した。 その上で、各年齢群において、対象児の感情の理由付けの回答に差がみられるか直接確率法を行なった。その結果、感情質問にネガティブ感情を抱いた対象児(Table9)について、有意な差がみられた(p<.05)。多重比較を行ったところ、4歳児群では絵本内容への言及が多くみられ、6歳児群では名前つけへの言及が多くみられることがわかった。
なお、ネガティブ感情の内わけに注目したところ、4歳児群で絵本内容に言及した対象児の5名中4名が怖いという感情を示しており、残りの1名は嫌なという感情を示していた。一方、6歳児群で名前付けに言及した対象児3名は、全員が嫌なという感情を示していた。 |
空想/現実の区別課題における正答数の傾向と、登場人物への名前付け課題での表情反応、感情回答と理由付け回答との関連について分析した。全体の正答数、各イラスト別の正答数の傾向と笑顔反応の回数の傾向や感情回答と理由付け回答の傾向との関連をいくつかみたが、いずれも特徴的な関連はみられなかった。
次に、空想/現実の区別課題における理由付けの回答の傾向についても、登場人物への名前付け課題での表情反応、感情回答と理由付け回答との関連を分析した。その中で、空想/現実の区別課題における感情による理由付け回数と、登場人物への名前付け課題における、名前付け時の感情の理由付けとの関連を示したものがTable10である。
空想/現実の区別課題における、感情による理由付けの回数の傾向の違いによって、登場人物への名前付け課題における名前付け時の感情の理由付けに差がみられるか、直接確率法を行った。結果、理由付けなしを除く、名前付け、絵本読み、絵本内容のいずれかの理由付けを行った幼児に注目すると、4歳児群において人数の差に有意傾向がみられた(p<.10)。多重比較の結果、空想/現実の区別課題において、感情による理由付けを行った幼児は、登場人物への名前付け課題における、名前付け時の感情の理由付けで、絵本内容に言及するものが多くみられた。 |