V.結果と考察2

2.コミュニケーション行為の中での動機づけ

 まず、実地研究の期間によってコミュニケーション行為の中での動機づけに対する学生の得点に差がみられるかどうかを検討する。コミュニケーション行為の中での動機づけに対する得点に関して対応あるt検定を行い有意水準の調整を行った(Table 2)。その結果、ガイダンス期と授業案完成期(t(18)=-1.688, p<.05)、授業案完成期と実践期(t(18)=-3.716, p<.001)、実践期とガイダンス期(t(29)=-8.854, p<.001)となり全ての期間で有意な差が見られた。そこで、これらの変化の背景にどのようなことがあったのかを自由記述から検討する。ガイダンス期と実践期の得点で1点以上上昇した群(以下、動機づけ上昇群(n=23))と上昇しなかった群(以下、動機づけ非上昇群(n=7))とを分けて、全ての期間に記入された記述を分析する。その際、コミュニケーション行為の中での動機づけとの関連が予想できるものとして、ポートフォリオの中でも、特に「今回の活動の中での他者との関わり」に関する記述と「今後行いたいこと(調べたいこと、不明なところ、考えたいことなど)」に関する記述に注目した。また曖昧な記述に関しては、他の項目に書かれたことも参考にして考察を行った。

Table 2 時期におけるコミュニケーション行為の中での動機づけ得点の平均値および標準偏差(SD
n 平均値 SD t p
コミュニケーション行為の中での動機づけ ガイダンス期 19 6.926 1.441 -1.688 *
授業案完成期 19 7.484 1.393
授業案完成期 19 7.484 1.393 -3.716 ***
実践期 19 8.518 1.122
ガイダンス期 30 6.933 1.303 -8.854 ***
実践期 30 8.609 1.094
※p<.05は“*”,p<.001は“***”とする


 動機づけ上昇群の自由記述からは、多くの学生はガイダンス期・授業案完成期では、活動に積極的に参加できなかったこと、自分のペアの学生以外の人との関わりが少ないが実践期になると、子どもをはじめいろいろな人と積極的に関わっていく様子が見出された。このことから、人と活動をしていて楽しい、仲良くしたい、他の人のために活動を頑張りたいといった動機づけは、人との相互作用が多いほどに高められていくことが考えられる。一方動機づけ非上昇群の自由記述からは、@ガイダンス期・授業案完成期、実践期と全ての時期において意欲的に他者と関わろうとし、動機づけ得点も高い状態でそのまま維持されたケース、Aガイダンス期・授業案完成期では積極的に他者と関わっていたが、実践期で子どもとの関わりがうまくいかなかったケース、Bガイダンス期・授業案実践期では、活動に参加できなかったり、グループの学生やチューターとの関わりが少なく、実践期に子どもとの関わりが増えるケースがみられた。@のケースでは、実地研究のどの時期においても、自分のコミュニケーション能力やリーダーシップの取り方などについて必要である課題を明確にし、活動への意欲が維持され続けたことがうかがわれた。また活動中に自身のコミュニケーション能力について、内省する記述も見られた。Aのケースでは、ガイダンス期や授業案完成期では比較的高い動機づけを維持していたと考えられるが、実践期ではペアの子と意思疎通がうまくいかないことや、子どもとどのように関わったらよいか苦悩することを経験している。自分では解決不能な出来事に遭遇したために動機づけが上昇しなかったか、もしくは特定の子どもが気がかりになり、他者とのやりとりが制限されたために動機づけが上昇しなかったことが推察された。Bのケースでは、動機づけ上昇群と同じ記述傾向が確認されたが、これらの学生の動機づけがなぜ上昇しなかったかは、ポートフォリオの記述だけからは明らかにすることができなかった。したがってポートフォリオに記載されていなかったことが影響した可能性が考えられるため、今後の課題として残された。