V.結果と考察3

3.達成感

 次に実地研究の期間によって達成感に対する学生の得点に差がみられるかどうかを検討する。達成感に対する得点に関して対応のあるt検定を行い有意水準の調整を行った(Table 3)。その結果、ガイダンス期と授業案完成期(t(18)=-2.778, p<.05)、実践期とガイダンス期(t(29)=-4.832, p<.001)となり2期間で有意な差が見られた。そこで、これらの変化の背景にどのようなことがあったのかを自由記述から検討する。ガイダンス期と実践期の得点で1点以上上昇した群(n=22)と上昇しなかった群(n=8)とを分けて、全ての期間に記入された記述を分析した。その際、達成感との関連が予想できるものとして、ポートフォリオ項目の中の「今回行ったこと・できたこと」、「今回考えたこと、思いついたアイデア」に書かれた記述に注目した。また曖昧な記述に関しては、他の項目に書かれたことも参考にして考察を行った。


Table 3 時期における達成感得点の平均値および標準偏差(SD
n M SD t p
達成感 ガイダンス期 19 5.579 1.239 -2.778 *
授業案完成期 19 6.697 1.619
授業案完成期 19 6.697 1.619 -.076
実践期 19 6.729 1.617
ガイダンス期 30 5.283 1.406 -4.832 ***
実践期 30 6.983 1.456
※p<.05は“*”,p<.001は“***”とする


 達成感上昇群の記述からは、多くの学生はガイダンス期には、グループ活動の中で何かを成し遂げた経験が少なく、できたこととして認識される事象も質の高い達成とは言えない。授業案完成期と実践期には、「できたこと」「できなかった・うまくいかなかったこと」を数多く経験し、失敗も成功も経験するがその体験が学生にとって非常に価値あるものとして認識され、達成感が高くなったことが考えられる。もしかすると失敗体験をいくらか経験したあとでの成功経験が達成感に大きく影響しているのかもしれないが、因果関係についてはさらなる検討が必要であっただろう。また授業案完成期・実践期においては、学生が活動をうまく進められないときや、失敗をして落ち込んでいるときに励みになるのは、現地の担任の先生のことばやチューターの関わりであったことも多くの学生が記述していた。教師やチューターからのアドバイスや的確な指摘は学生の「できなかった」という認知を低下させているのかもしれない。
 達成感非上昇群の記述からは、@全ての時期において達成感が高く維持されたケース、A授業案完成期と実践期には、「できたこと」「できなかった・うまくいかなかったこと」を数多く経験し、失敗や成功も経験するケースに分けられた。@では、ガイダンス期から活動の主旨や概要を理解し、自分のすべき目標が具体的かつ的確にたてることができたことが、達成感につながったこと、Aのケースでは、活動を進めるにつれて自己評価が高まり、結果的に達成感得点が上昇しなかったことが考えられた。しかし達成感については、これらのケースに入らない学生もいた。これらは、自由記述の観点が不十分であったこと、そこに十分な記述がされていなかった可能性があることによることも考えられるため、今後の課題として残された。