1.対象者の年齢と結婚希望年齢
分析の対象となった大学生の年齢の平均と、結婚希望年齢の平均、それぞれの標準偏差(SD)を
男女別にTable1に示す。厚生労働省の人口動態統計(2008)によると、2008年の平均初婚年齢は、
夫30.2歳、妻28.5歳であった。本研究での結婚希望年齢の平均は、男子大学生28.18歳、女子大学生
26.99歳であり、2008年の統計結果よりやや若い結果となった。
2.各尺度の因子分析
(1)結婚観尺度
まず、結婚観尺度31項目のうち、先行研究の小田切(2003)の因子分析の結果の3因子にあてはまらな
かった9項目を除いた22項目を分析対象とした。この22項目について男女混合で、最尤法・プロマックス
回転による因子分析を行った。固有値の変化と因子の解釈可能性から、小田切(2003)の先行研究通り、
3因子解が妥当であると判断した。そこで3因子を仮定して最尤法・プロマックス回転による因子分析を
行った。その結果、十分な因子負荷量を示さなかった7項目を分析から除外し、残りの15項目に対して
再度、最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。結果をTable2に示す。
第1因子は、結婚すると「幸せになれる」「安らぎを得られる」などを示す項目から成り立っているの
で、先行研究通り「結婚への期待」と命名した。第2因子は、「結婚するのは当たり前のことと思う」
「結婚後は、夫は仕事、妻は家庭」という結婚に対する保守的な意見が示されているので、先行研究通
り「伝統的結婚観」と命名した。第3因子は、結婚すると「自由にお金が使えない」「自分の時間が少
なくなる」など結婚生活に対する閉塞感を示す項目から成り立っているので、先行研究通り「結婚生活
に対する拘束感」と命名した。因子ごとのα係数は、第1因子0.780、第2因子0.7、第3因子0.504で
あった。
(2)母親の結婚満足度尺度
母親の結婚満足度尺度全19項目について、男女混合で固有値1以上の基準により、最尤法・プロマッ
クス回転による因子分析を行った。その結果、十分な因子負荷量を示さなかった4項目を分析から除外
し、残りの15項目に対して再度、最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。その結果、5因
子が析出された。結果をTable3に示す。
第1因子は夫との日常生活満足や、夫との意見一致満足を示す項目から成り立っているので「夫満足」、
第2因子は夫の親や親戚に関わる項目から成り立っているので、「婚家満足」、第3因子は家庭の収入
や資産に関する項目から成り立っているので、「経済満足」、第4因子は住宅や家事施設満足を示す
項目から成り立っているので、「住居満足」、第5因子は子どもの健康や子どもとの対話満足を示す
項目から成り立っているので、「子ども満足」とそれぞれ先行研究通り命名した。因子ごとのα係数
は、第1因子から順に、0.904、0.869、0.929、0.757、0.637であった。
(3)職業観尺度
職業観尺度全35項目について、男女混合で固有値1以上の基準により最尤法・プロマックス回転に
よる因子分析を行った。固有値の変化と因子の解釈可能性から、菰田(2007)の先行研究通り、4因
子解が妥当であると判断した。そこで4因子を仮定して最尤法・プロマックス回転による因子分析を
行った。その結果、十分な因子負荷量を示さなかった11項目を分析から除外し、残りの22項目に対し
て再度、最尤法・プロマックス回転による因子分析を行った。結果をTable4に示す。
第1因子は、「自分の能力や個性を生かせる仕事ができる」といった、自分自身に重きをおいて
職業を選択する項目から成り立っているので、先行研究通り「自己価値」と命名した。第2因子は、
「世間から高い評価を受けられるような仕事ができる」など、社会的な評価に重きを置いて職業を
選択する項目から成り立っているので、先行研究通り「社会的評価」と命名した。第3因子は、
「残業がほとんどない」「土日は必ず休める」といった、労働条件に重きを置いて職業を選択する
項目から成り立っているので、先行研究通り「労働条件」と命名した。第4因子は、「他人の役に
立つ仕事ができる」「社会貢献になる仕事ができる」の2項目であり、他人や社会の役に立つこと
に重きを置いて職業を選択する内容なので、独自に「社会貢献」と命名した。因子ごとのα係数は、
第1因子から順に、0.887、0.789、0.784、0.819であった。
(4)男女別の下位尺度得点の平均値と標準偏差
因子分析の結果から、「結婚への期待」、「伝統的結婚観」、「結婚生活に対する拘束感」、
「夫満足」、「婚家満足」、「経済満足」、「住宅満足」、「子ども満足」、「自己価値」、
「社会的評価」、「労働条件」、「社会貢献」のそれぞれの項目において、男女別に平均値を
算出し、各因子の下位尺度得点とした。各下位尺度得点の平均と標準偏差(SD)をTable5に示す。
また、男女別でそれぞれの下位尺度得点が異なるかについて、t検定による検討を行った結果も合
わせて記載した。t検定の結果より、「結婚生活に対する拘束感」(t(321)=3.02,p<.01)、
「夫満足」(t(320)=3.79,p<.001)、「婚家満足」(t(321)=4.95,p<.001)、「自己価値」
(t(321)=2.33,p<.05)、「社会的評価」(t(321)=4.24,p<.001)、「社会貢献」(t(321)
=2.12,p<.05)について、男女の間に有意な差が認められ、いずれも男子の方が高い値であった。
その他の下位尺度得点については、平均値は男女ほぼ同等であり、有意差は認められなかった。
3.結婚観と母親の結婚満足度、職業観との相関
結婚観と母親の結婚満足度、職業観との相関係数を算出し、男女別に検討を行った。まず、男子
の相関の結果をTable6に示す。その結果、「結婚への期待」と「夫満足」(r=.205,p<.05)、
「婚家満足」(r=.182,p<.05)、「住宅満足」(r=.196,p<.05)、「子ども満足」(r=.233,p<.01)、
「自己価値」(r=.279,p<.01)、「社会的評価」(r=.289,p<.01)、「社会貢献」(r=.276,p<.01)の
間に弱い相関が見られた。また、「伝統的結婚観」と「社会的評価」(r=.280,p<.01)の間に弱い相関
が見られた。さらに、「結婚生活に対する拘束感」と「社会的評価」(r=.196,p<.05)の間に弱い相関
が見られた。全体的に、「母親の結婚満足度」は、「結婚への期待」との間に相関がみられるが、
「伝統的結婚観」、「結婚生活に対する拘束感」には相関がみられないことが分かった。
次に、女子の相関をTable7に示す。その結果、「結婚への期待」と「夫満足」(r=.153,p<.05)、
「経済満足」(r=.151,p<.05)、「住宅満足」(r=.154,p<.05)、「子ども満足」(r=.327,p<.01)、
「自己価値」(r=.148,p<.05)、「社会貢献」(r=.188,p<.05)との間に弱い相関が見られた。また
「伝統的結婚観」と「夫満足」(r=.262,p<.01)、「経済満足」(r=.152,p<.05)、「子ども満足」
(r=.204,p<.01)、「労働条件」(r=.166,p<.05)との間に弱い相関が見られた。さらに、「結婚
生活に対する拘束感」と「婚家満足」(r=-.163,p<.05)、「経済満足」(r=-.195,p<.01)との間に
弱い負の相関が、「社会的評価」(r=.258,p<.01)との間に弱い正の相関がみられた。
全体的に、「母親の結婚満足度」は、「結婚観」の下位尺度のすべてに相関することが分かった。
4.母親の結婚満足度と結婚意思、結婚希望年齢との相関
母親の結婚満足度の5つの下位尺度得点を合計し、「母親の結婚満足度」得点とした。母親の結婚
満足度と結婚意思、結婚希望年齢との相関係数を算出し、男女別に検討を行った。なお、結婚意思は
「絶対にしたい」を1点、「いい人がいればしたい」を2点、「必ずしもしなくて良い」を3点、
「一生したくない」を4点として換算しているため、低い点数を取るほどその下位尺度の意味する特性
が強いということになる。また、結婚希望年齢は年齢が低いほど早く結婚したいということを表す。
よって、母親の結婚満足度と結婚意思、結婚希望年齢は、負の相関になるほど、関連が強いということ
である。男子の相関をTable8に、女子の相関をTable9に、また、男女別の結婚意思の程度の内訳を
Table10に示す。その結果、男子では「母親の結婚満足度」と「結婚意思」(r=-.281,p<.01)との
間に弱い負の相関がみられた。女子では「母親の結婚満足度」と「結婚意思」(r=-.285,p<.01)、
「結婚希望年齢」(r=-.153,p<.01)との間に弱い負の相関がみられた。また、結婚意思については
、「いい人がいれば結婚したい」が一番多く、男女ともに50%を超えていた。
5.母親の結婚満足度と職業観が結婚観に与える影響の比較
母親の結婚満足度と職業観が結婚観にどのように影響しているのか、どちらの要因が大きな影響
を及ぼしているのかを明らかにするために、男女別に重回帰分析を行った。
母親の結婚満足度の5つの下位尺度と、職業観の4つの下位尺度を独立変数とし、結婚観の3つの下位
尺度を従属変数とした。重回帰分析に基づくパス図の男子の結果をFigure1に、女子の結果をFigure2
に示す。有意なパスのみ示してある。ただし、Figure1,2に示された独立変数間の相関係数は中程度
以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる。
男子においては、「社会的評価」が「結婚への期待」(β=.260,p<.01)に対してと、「伝統的結
婚観」(β=.350,p<.001)に対して有意な関係があった。
女子においては、「夫満足」が「伝統的結婚観」(β=.299,p<.01)に対して、「婚家満足」が
「結婚生活に対する拘束感」(β=-.189,p <.05)に対して、「経済満足」が「結婚生活に対する
拘束感」(β=-.224,p<.05)に対して、「子ども満足」が「結婚への期待」(β=.295,p<.001)
に対して有意な関係があった。また、「社会的評価」が「結婚生活に対する拘束感」
(β=.301,p<.01)に対して、「労働条件」が「伝統的結婚観」(β=.184,p<.05)に対して有意
な関係があった。
Figure1 母親の結婚満足度と職業観が結婚観に与える影響 (男子)
***=p<.001,**=p<.01,*=p<.05
Figure2 母親の結婚満足度と職業観が結婚観に与える影響 (女子)
***=p<.001,**=p<.01,*=p<.05
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