【考察】




 本研究の目的は2つあった。
1つは、「大学生の結婚観と、母親の結婚満足度の認知との詳細な関連を明らかにすること」であった。
2つは、「大学生の結婚観には、母親の結婚満足度の認知と職業観のどちらが強く影響するかを男女
それぞれにおいて明らかにすること」であった。
 最初に目的1に関することについて、続いて目的2に関することについて考察を行う。


 1.  結婚観、母親の結婚満足度、職業観の下位尺度得点の男女差
 t検定の結果から、結婚観、母親の結婚満足度、職業観の下位尺度得点の男女差について、以下の3点
から考察する(Table5)。
 まず1点は、結婚生活に対する拘束感において、女子大学生よりも男子大学生の方が有意に高い結果と
なったことについてである。これは、女子大学生よりも男子大学生の方が、結婚生活に対する拘束感を
強く感じているということである。厚生労働省(2004)は、結婚することや子どもを持つことに対する
国民の意識を体系的に把握することを目的に、20〜50歳未満の男女を対象として、「少子化に関する
意識調査」を行った。ただし、本研究では未婚の大学生を対象としたため、この調査の若年独身層
(男性:20〜32歳、女性:20〜30歳)の回答を参考にする。この調査において、結婚の良くない点・
デメリットについて尋ねたところ、「家族扶養の責任が生まれる」と答えた人の割合は、女性が約20%
に対して、男性は約38%であった。このことと本研究の結果を併せて考えると、若年独身層の男女の
中には、「結婚して家族を養っていくのは、男性である」という考え方があり、これが、男性に結婚
生活に対する拘束感を感じさせている原因の一つであると考えられる。

 2点は、母親の結婚満足度の認知についてである。母親の夫に対する満足と婚家に対する満足において
、女子大学生よりも男子大学生の方が有意に高い結果となった。これは、女子大学生よりも男子大学生の
方が、母親の夫に対する満足と婚家に対する満足を高く認知しているということだ。この背景には次の
ようなことが考えられる。それは、女子大学生の方が男子大学生よりも、母親の結婚満足度に対して敏感で
あるということだ。諸井(1997)が「女子青年は、家事が母親に過重に負担されているとみている」と
述べたように、女子青年は両親の家庭内役割の不衡平性を敏感に感じ取っている。また、渡辺(1997)は、
娘から母への依存はどの年代でも他の家族との関係以上に強く、母と娘の女性同士の密接な関係は青年期
から成人期にかけて一貫して持続すると述べている。このことから、女子大学生は、家庭内での役割に
おいて、父親よりも同性である母親の方に加担してみていると考えられる。そのため、母親の夫に対する
満足や、夫の親戚関係である婚家に対する満足において、女子大学生の評価は低くなったと思われる。

 3点は、職業観についてである。労働条件以外の3つの下位尺度得点(自己価値、社会的評価、社会貢献)
で、女子大学生よりも男子大学生の方が有意に高い結果となった。質問紙で、「あなたは以下の項目に
対してどの程度こだわりますか。」という尋ね方をしたので、この結果は、女子大学生よりも男子大学生
の方がこだわりを持って職業を選択するということを示している。つまり、女子大学生よりも男子大学生
の方が、自己価値を高められ、社会的評価が高く、社会貢献ができるような職業を選択するということで
ある。この結果は、男子大学生の方が女子大学生よりキャリアに対する意欲が高いと示した森永(1993)
の結果と一致する。また、渡辺(1998)は、男性が働くことは当然視されているのに対し、女性にとって
仕事はライフスタイルの一つとして選択されたり、家事・育児・介護に差しさわりのない範囲でなされる
と述べている。このことから、女性の職業観が変化しているとはいっても、我が国では、「男性は仕事を
する」という意識がまだまだ根強いことが示唆された。そのため、職業観については、女子大学生よりも、
男子大学生の方が高くなったことが考えられる。
 その他の下位尺度得点については、平均値は男女ほぼ同等であり、有意な差は認められなかった。


 2.  結婚観と母親の結婚満足度の認知との関連
 相関の結果から、男子大学生においても女子大学生においても、母親の結婚満足度の認知がそれぞれの
結婚観と関連していることが明らかになった。ここでは目的1に関する3つの仮説を検証する。なお、
男子大学生についてはTable6、女子大学生についてはTable7から得られた結果から考察していく。



(1)仮説1「母親が夫との関係に満足していると認知したものは、結婚への期待が高くなる
  だろう」について

 本研究では、男子大学生においても女子大学生においても、母親の夫に対する満足と結婚への期待との
間に正の相関がみられ、仮説1は支持された。この結果について、結婚している夫婦が現在の配偶者に
どの程度満足しているかをみた調査(菅原・詫摩, 1997)[柏木ら, 2006からの引用]の結果から考察して
いく。この調査では、結婚当初同程度だった夫婦の満足度は、結婚生活中年期以降、妻の満足度が急速に
低下し、結婚生活15年以降では夫の満足度得点は平均105に対し、妻は87と、両者の間には大きな差が
生じることが明らかになっている。柏木ら(2006)は、このような親たちの状況は、子どもたちに認識
されており、結婚は母親つまり女性にとって幸せそうでないと映っていると述べている。このことから、
母親が夫との関係に満足していないと認知した子どもの結婚への期待は低くなるといえる。本研究では、
母親が夫との関係に満足していると認知した子どもは、結婚への期待が高くなることが明らかになった。
本研究の結果は、柏木ら(2006)の見解と反対の結果だが、子どもにとって母親が夫との関係に満足して
いるかどうかは、子どもの結婚への期待に関連する重要な要因であることが示唆された。



 (2)仮説2「母親が子どもとの関係に満足していると認知したものは、結婚への期待が高く
  なるだろう」について

 本研究では、男子大学生においても女子大学生においても、母親の子どもに対する満足と結婚への期待
との間に正の相関がみられ、仮説2は支持された。その理由として以下のことが考えられる。
それは、大学生である子どもと母親との関係が良好だということだ。「母親が子どもとの関係に満足して
いる」と大学生が認知するということは、その母子関係は少なくとも、子どもである大学生にとっては
良好であるといえるだろう。大学生にとって、子どもである自分や自分の兄弟姉妹との関係に対して母親が
満足していると認知することは、結婚して子どもを持てば、自分たち母子のような良い関係を作ることが
できるという考えにつながるため、結婚への期待と関連すると考えられる。このことは、結婚の良い点・
メリットとして「子どもや家族を持てること」と答えた未婚者の割合が、男性33%(第2位)、女性45%
(第1位)であったこと(国立社会保障・人口問題研究, 2005)からも示唆される。



(3)仮説3「母親が婚家との関係に満足していないと認知したものは、結婚生活に対する拘束感
  が高くなるだろう」について

 本研究では、女子大学生においてのみ、母親の婚家に対する満足と結婚生活に対する拘束感との間に
負の相関がみられ、男子大学生では有意な相関はみられなかった。このことから、仮説3は、女子大学生
においてのみ支持された。この結果から、女子大学生の方が男子大学生よりも、婚家との関係をより
重要なものと位置付けているということが示唆された。その理由は、結婚の良くない点・デメリットで
「義父母や親戚など人間関係が複雑になる」と答えた未婚女性の割合が、未婚男性の2倍以上だったこと
(厚生労働省, 2004)である。一般的に、女性が結婚するとき、「相手の家に入る」という言い方をする
ことからも、女性の方が男性よりも、婚家関係を結婚のデメリットと捉える割合が高く、結婚生活に
対する拘束感が高くなったと考えられる。




 3.  母親の結婚満足度の認知と結婚意思、結婚希望年齢との関連
 相関の結果から、男子大学生、女子大学生それぞれにおける、母親の結婚満足度の認知と結婚意思、
結婚希望年齢との関連について考察する。また、結婚意思の程度の内訳についても考察する。


(1)男子大学生について
 
 男子大学生では、母親の結婚満足度の認知と結婚意思との間には有意な相関がみられたが、母親の
結婚満足度の認知と結婚希望年齢との間には有意な相関がみられなかった(Table8)。
 まず、母親の結婚満足度の認知と結婚意思との間に有意な相関がみられたことについて考察する。
このことは、男子大学生では、母親の結婚満足度を高いと認知するものほど、「結婚したい」という
気持ちが強くなるということを示している。これは、築地(2000)の、大学生は母親を近くに感じて
いるということが関係していると考えられる。男子大学生は母親を近くに感じているため、母親が結婚
生活に満足していると認知することが結婚の良いイメージとなり、「結婚したい」という気持ちに
つながるのではないだろうか。このことから、母親が結婚生活に満足しているかどうかは、男子大学生
の結婚意思を規定する一つの要因であるとともに、男子大学生にとって母親という存在は重要である
ことが確認された。

 次に、母親の結婚満足度の認知と結婚希望年齢との間には有意な相関がみられなかったことについて
考察する。このことから、男子大学生の結婚希望年齢には、母親の結婚満足度の認知は関係がないことが
明らかになった。つまり、男子大学生においては、母親が結婚生活に満足していると認知しても、それが
「早く(若い年齢で)結婚したい」という気持ちにはつながらないということである。その理由として、
次の2つのことが考えられる。1つは、男子大学生の結婚希望年齢に関連するものは、母親の結婚満足度の
認知以外に別の要因があることだ。例えばそれは、仕事である。大竹(2006)が、男性にとって仕事とは、
社会における存在価値を表すものであると述べていることから、男性は仕事を中心として物事の選択・
決定を行うことが多いと思われる。よって、男子大学生における具体的な結婚希望年齢は、職業選択や仕事
での目標によって左右されると考えられる。2つは、男子大学生と母親は同性でないことだ。同性の両親で
あれば、その姿を将来の自分にそのままあてはめることができるが、男子大学生は母親と同性でないため、
妻であり母である母親の姿に、結婚して夫になり父になる将来の自分を重ねることはないだろう。そのため、
母親の結婚満足度の認知は、具体的な結婚希望年齢には関連がみられなかったと考えられる。

 以上のことより、男子大学生における母親の結婚満足度の認知は、「結婚したい」という漠然とした
結婚意思には関連するが、結婚希望年齢は、具体的な時間的展望を表すため、関連はみられなかったと
考えられる。



(2)女子大学生について

 女子大学生では、母親の結婚満足度の認知と結婚意思、母親の結婚満足度の認知と結婚希望年齢との間に
それぞれ有意な相関がみられた(Table9)。この結果は、女子大学生は、母親の結婚満足度を高いと認知
するものほど、結婚意思が強くなり、結婚希望年齢も低くなることを示している。これは、伊東(1997)の
「女性の結婚意思に有意な影響を及ぼすのは、結婚に対する一般的態度であり、その態度は親(とくに母親)
の結婚生活が幸福か・否かという娘の認知の違いが影響する」という結果を支持するものである。本研究
でも、女子大学生の結婚意思と結婚希望年齢には母親の結婚満足度の認知が大きく影響していることが確認
された。この理由として、女子大学生と母親が同性であるということが重要だと考えられる。女性は、結婚
をして、妻になり母になるが、このことを実感できるのは、最も身近な存在である母親を通してだと考えら
れる。同性の両親である母親の結婚生活を見ることで、女子大学生は、将来の自分の結婚生活のイメージを
より鮮明に描くことができるのではないだろうか。よって、女子大学生において、母親が結婚生活に満足
していると認知することは、結婚の良いイメージとなり、「必ず結婚したい」や、「早く結婚したい」と
いう気持ちにつながると考えられる。


(3)結婚意思の程度の内訳について
 
 結婚意思の程度の内訳について考察する(Table10)。本研究では、結婚意思を「絶対にしたい」、
「いい人がいればしたい」、「必ずしもしなくて良い」、「絶対にしたくない」の4つの中から1つを選択
してもらった。その結果、男女ともに「いい人がいれば結婚したい」と答えた人の割合が一番多く、50%を
超えていた。厚生労働省(2004)が未婚の男女を対象に、結婚していない理由を尋ねたところ、「適当な
相手にめぐりあわないから」と答えた人の割合は、男性も女性も60%前後で最も多かった。この調査と、
本研究で「いい人がいれば結婚したい」と答えた人が一番多かったことを併せて考えると、結婚するか
しないかは個人の自由・選択となってきている(柏木, 2003)ものの、「いい人とめぐりあって結婚する
こと」は、容易ではないことが示唆された。また、「一生したくない」と答えた人の割合は男子大学生では
3.3%、女子大学生では1.7%であり、95%以上の大学生は、いずれは結婚したいと考えていることが明らか
になった。これは、厚生労働省(2004)の結果ともほぼ一致する(2002年「一生結婚するつもりはない」
男子6.1%、女子5.7%)。このように、生涯結婚するつもりのない人は1割にも満たないのにもかかわらず、
なぜ我が国では未婚化・晩婚化が問題となっているのだろうか。この点については大変興味深いが、本研究
の内容とは直接関係がないので、ここでは扱わないこととし、今後の研究に期待する。




 4.  母親の結婚満足度の認知と職業観が結婚観に与える影響
 重回帰分析の結果から、男子大学生、女子大学生それぞれにおいて、母親の結婚満足度の認知と職業観が
結婚観にどのような影響を与えているかが明らかになった。ここでは目的2に関する2つの仮説を検証する。
ただし、本研究における伝統的結婚観は、因子分析の結果(Table 2)より、「結婚後、夫は外で働き、妻は
家庭を守るべきだ」のような性別分業意識に関する内容より、「結婚するのは、当たり前のことと思う」や
「生涯独身で過ごすというのは、好ましい生き方ではない」のような、結婚することを当然とする内容を多く
含んでいるため、この内容に即して考察していく。


(1)仮説1「男子大学生の結婚観には、母親の結婚満足度の認知よりも、職業観の方が強く
   影響するだろう」について

 男子大学生においては、職業観4つのうち、社会的評価が結婚への期待と伝統的結婚観に有意な影響を与えて
いたが、母親の結婚満足度は、5つのうち、どの下位尺度得点も結婚観に有意な影響を与えていなかった
(Figure1)。よって、仮説1は支持された。
 男子大学生において、「結婚への期待に、社会的評価が影響を与えていたこと」と、「伝統的結婚観に、
社会的評価が影響を与えていたこと」について考察する。近年では、仕事と結婚生活・子育てを両立させる
男性タレントや、「パパを楽しもう」というコンセプトのもと、父親の子育て参加を応援する「ネオパパ
クラブ(http://neopapa.jp/)」というプロジェクトなどが注目されている。また厚生労働省(2009)
では、子育て期における正社員男性の58.4%が「仕事と家事・子育てを両立させたい」と考えていると
報告している。これらのことより、近年の我が国の男性の中には、「仕事と家庭を両立させたい」という
意識が高まっていることが分かる。このことより、近年では「立派に仕事を
し、結婚もして家庭円満であること」が幸せの象徴であるという風潮があると考えられる。
 本研究で、「男子大学生の結婚への期待と伝統的結婚観に社会的評価が影響を与えていたこと」は、
「社会的評価の高い仕事をしたいと思う男子大学生は、結婚への期待や、伝統的結婚観という結婚観
を持っている」と読み替えることができる。社会的評価の高い仕事をしたいと思う男性は、世間的に
「良い」と認められることに高い価値を置いていると考えられる。そのため、仕事においても結婚に
おいても、周囲からの評価を重要視しているのではないだろうか。このような男性は、社会的評価の
高い仕事をし、幸せな結婚をすることを一種の社会的ステイタスと捉えていると考えられる。また、
未婚の男性に結婚したい理由・結婚のメリットについて尋ねたところ、12%の人が「社会的信用を得
たり、周囲と対等になれる」と回答している(国立社会保障・人口問題研究所, 2005)。これは、結
婚をすること自体に高い評価を見出している男性の姿を表した結果であると思われる。

 以上のことより、社会低評価の高い仕事をしたいと思う男子大学生は、周囲からの評価も含めて、
結婚することは当然だという伝統的結婚観と、結婚すれば安らぎや幸せを得られるという結婚への
期待を持っていると考えられる。



(2)仮説2「女子大学生の結婚観には、職業観よりも、母親の結婚満足度の認知の方が
  強く影響するだろう」について

 女子大学生においては、母親の結婚満足度4つと、職業観2つが結婚観に有意な影響を与えていた(Figu
re2)。またその影響の強さは、子どもに対する満足から結婚への期待、社会的評価から結婚生活に対す
る拘束感、夫に対する満足から伝統的結婚観、経済に対する満足から結婚生活に対する拘束感、婚家に
対する満足から結婚生活に対する拘束感、労働条件から伝統的結婚観の順に強いことが明らかになった。
つまり、女子大学生の結婚観に一番大きな影響を与えていたのは母親の子どもに対する満足、次いで職
業観の社会的評価とういうことである。以上のことより仮説2は支持された。このことについて、特に
強い影響を与えていた下位尺度2つから考察していく。
 
 1つは、「女子大学生の結婚への期待には、母親の子どもに対する満足が影響を与えていたこと」につ
いてである。この結果は、母親が子どもに満足していると認知した女子大学生は、「結婚すれば安らぎ
や幸せを得られる」や「結婚すれば寂しくない」、「結婚すれば家庭や子どもを持てる」という考えを
持っているということを示している。国立社会保障・人口問題研究所(2005)によると、結婚したい理
由・結婚のメリットについて「子どもや家族を持てること」と答えた未婚者の女性の割合は、45%(第
1位)であり、1987年の33%より増加している。このことは、女性は、結婚することで子どもや家庭を
持てることに対する期待が大きいことを示している。よって、本研究で得られた結果の女子大学生の
結婚への期待には、「子どもを持てること」への期待が多く含まれているのではないかと考える。
母親が、子どもである自分や自分の兄弟に対して満足していると認知することが、「結婚することで
子どもが持てる」という考えにつながり、結婚への期待に影響したと考えられる。また、母親の結婚
満足度5つのうち、なぜ、子どもに対する満足が、女子大学生の結婚への期待に一番大きな影響を与え
ていたのかに着目して考察する。この結果には、次のような解釈が考えられる。それは、「子どもを
産んで、母親になる」ということが、女性のみに与えられた特権であることだ。母親が、子どもであ
る自分や兄弟姉妹に対して満足していると認知した女子大学生は、自分が結婚をして子どもを産み育て、
母親になることを良いイメージとして捉え、結婚への期待に影響を与えたと考えられる。

 2つは、「女子大学生の結婚生活に対する拘束感には、社会的評価が影響していたこと」について
である。これは、「子ども満足から結婚への期待への影響」に次ぐ、2番目に大きな影響であった。
このことから、本研究では、女子大学生の結婚観には、母親の結婚満足度の認知のほかに、職業観も
影響を与えていたことが明らかになった。森永(1997)は、1986年に男女雇用機会均等法が施行され
てから、女性の活躍の場が広がり、働くことが当たり前であると考える女性が増加してきていること
を報告している。実際に、わが国の15歳以上の労働力人口は、2002年は6689万人で、1970年の5153万
人から29.8%増加した。男女別にみると、男性が3956万人で26.4%増に対し、女性は2733万人で
35.0%増と女性の増加が目立っている(内閣府, 2003)。また、厚生労働省(2004)が20〜30歳の
未婚の男女を対象に、結婚の良くない点・デメリットを調査した結果、女性では1位が「自分の自由
になる時間が少なくなること」(61.3%)、2位が「行動が制限されること」(56.0%)である。
さらに、東・柏木(1999)は、有職の女性の中には、「結婚は家事を背負い込むだけでメリットが
ない」と考え、結婚生活を理想としない者が増加しつつあることを指摘している。一般に、女性が
社会的評価の高い仕事をするということは、キャリア志向であるといえる。以上のことより、社会
的評価の高い仕事をしたいと思う女性は、結婚生活を「拘束されるもの」と捉えており、本研究の
結果は妥当性を持つと考えられる。


 5.  総合考察
 本研究では、母親の結婚満足度の認知が大学生の結婚観に与える影響について、職業観との比較
から検討した。目的の1つ目は「大学生の結婚観と母親の結婚満足度の認知との詳細な関係を明らか
にすること」、2つ目は「大学生の結婚観には、母親の結婚満足度の認知と職業観のどちらが強く影
響するかを男女それぞれにおいて明らかにすること」であった。この2つの目的を通して、大学生の
結婚観に影響を与えるものとして、以下の2つのことが示唆された。

 1つは、大学生にとって、母親の結婚満足度の認知は、結婚観を形成するうえで重要だが、それは
特に同性である女子大学生において顕著であることである。
 2つは、男女ともに社会的評価の高い仕事をしたいと思うことが結婚観に影響を与えていたが、その
意味は男女で大きく異なっていることである。ここでは、それぞれについて総合考察を行う。


(1)母親の結婚満足度の認知が結婚観に与える影響の違いについて

 本研究では、相関の結果より、母親の結婚満足度の認知は、男女ともに結婚観や結婚意思との間
に関連がみられた。しかし、重回帰分析の結果より、母親の結婚満足度の認知は、女子大学生の結
婚観に影響を与えていたが、男子大学生の結婚観には影響を与えていなかった。この結果から、
母親の結婚満足度の認知は、男子大学生の結婚観よりも女子大学生の結婚観において、より重要で
あることが明らかになった。このことに関して、次のような解釈が考えられる。それは、母親と
女子大学生は同性であるため、同一化の度合いが男子大学生よりも高くなるということである。
渡辺(1997)が、娘から母への依存はどの年代でも他の家族との関係以上に強く、母と娘の女性
同士の密接な関係は青年期から成人期にかけて一貫して持続すると述べたように、母親と娘の関
係は、他のどの関係よりも密接で強固なものだといえる。また女子大学生は、妻であり母である
母親の姿から、結婚したときの自分の姿をイメージすると思われる。一方、男子大学生は母親と
異性であるため、同一化の度合いが女子大学生に比べて低かったと推察される。そのため、母親
の結婚満足度の認知は男子大学生の結婚観に影響しなかったと考えられる。このことから、結婚
観に関しては、同性である両親からの影響が大きいことが示唆された。今後は、男性にとって同性
である父親からの影響も検討することが必要だろう。


(2)社会的評価が結婚観に与える影響の違いについて

 本研究では、男女ともに、職業観の下位尺度である社会的評価が結婚観に影響を与えていたが、その
意味は男女で大きく異なっていた。男子大学生では、社会的評価は結婚への期待と伝統的結婚観に影
響を与えていた。結婚への期待とは、「結婚をすれば安らぎや幸せを得られる」ということであり、
伝統的結婚観とは、「結婚することは当然である」ということである。これらは結婚をプラスのイ
メージとして捉えている内容である。一方女子大学生では、社会的評価は結婚生活に対する拘束感
に影響を与えていた。結婚生活に対する拘束感とは、「結婚すると自分の自由が少なくなる」という
ように、結婚をマイナスのイメージとして捉えている内容である。このように、「社会的評価の高い
仕事をしたい」という気持ちを男女同じように持っていても、それが結婚観に与える影響は、男女で
大きく異なっていた。この背景として、以下のことが考えられる。それは、我が国において、「結婚
したら、男性は仕事をし、女性は家庭を守る」という性別役割分業意識がまだまだ根強く残っている
ということだ。育児休業を利用するかどうかについて、子どもが産まれたときの気持ちを男性に尋ね
た結果、「育児休業を取得したいと思ったが、取得しなかった」と回答した男性は41.2%であり、
取得しなかった理由の第1位は、「他に育児をする人がいたから」であった(柏木ら, 2006)。このこ
とから、男性の子育て参加を阻んでいるのは、「外で働くのは男性の役割、家で子育てをするのは女
性の役割」という性別役割分業意識だといえるだろう。また、女性が男性と同じような役職・地位の
仕事をしていたとしても、結婚や出産をした後、女性が男性と同じように仕事を続けることは難しい
と考えられる。        
以上のことから、同じように社会低評価の高い仕事をしたいと思っていても、それが結婚観に与える
影響が男女で大きく異なるのは、性別役割分業意識が根強く残っているからだと考えられる。




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