学業的満足遅延研究


対象:
三重県内の国立大学にて教職課程の心理学系科目を受講する学生
京都府内の私立大学にて一般教養の心理学系科目を受講する学生
欠損値を除いた計394名を分析対象とした。
(男性219名, 女性175名 平均年齢19.5歳 SD=0.8)

手続き:
質問紙調査(実施期間11月〜12月) 一斉回答方式

質問紙構成:
@学業的満足遅延尺度(11項目)
 Zhang & Karabenick, et al. (2011)は、Bembenutty & Karabenick(1998)において作成された学業的満足遅延尺度(Academic delay of gratification Scale = ADOG-S)を基に、アジア圏の文化を考慮した表現の小学生向けの学業的満足遅延尺度(ADOG-C)を開発し、1つの下位尺度からなるものとして妥当性と信頼性を検討した。本研究では、そこで作成された(ADOG-C)を著者に翻訳許可をとり日本語に翻訳して使用した。
質問の形式は先行研究に則り、項目ごとに「明日テストを控えているとき」などの場面を設定した。それに対して「A. テストで成績をとるため友達と遊ばずに家で勉強する」と「B. テストで悪い成績を取るかもしれないが友達と遊ぶ」といった対立する2つの文章を載せ、教示文において「以下は学習場面における二種類の行動を示した文章です。それぞれの記述内容をよく読み比べ、あなたに最もあてはまる数字に○をつけて下さい。なお、この質問には正解や間違った答えはありません。どう答えるのが望ましいかといったことは考えず、現在のあなたに近い考えを率直に選んでください。」と回答の指示を行った。選択肢は「絶対にAを選ぶ」から「絶対にBを選ぶ」までの6件法で回答をさせた。なお、Bembenutty & Karabenick(1998)では項目表現の条件に対比させる文章は、遅延報酬に学業達成に価値があり、成功可能性を高めることを含めることを述べており、その点に注意しながら翻訳を行った。

A努力調整方略使用尺度(4項目)
Pintrich, Garcia & et al.(1992)によって作成されたMotivated strategies learning questionnaire(MSLQ)のうち、学習への取り組みに対し努力調整をどれくらい行うかを測定する下位尺度(effort regulation)を日本語に翻訳して使用した。教示文は「以下のそれぞれの項目について、あなた自身に最もあてはまると思うところの数字に○印をつけて下さい。」とした。選択肢は「全く当てはまる」から「非常に当てはまる」までの4件法で回答をさせた。

Bメタ認知傾向(8項目)
市原・新井(2006)の、個人が学習においてどの程度メタ認知的傾向があるかを測定する尺度を使用した。教示文は「普段のあなたについて、最も当てはまると思うところの数字に○印をつけて下さい。」とした。選択肢は「全く当てはまらない」から「非常に当てはまる」までの4件法で回答させた。メタ認知はしばしばモニタリングやプランニング、学習の柔軟性等いくつかの側面に分類される。しかし先行研究において学業的満足遅延とメタ認知との関連で両者の違いについては言及されていないため、本研究ではモニタリングとプランニングを融合的に扱った市原らの尺度を使用した。

C学習の持続性の欠如(5項目)
伊藤・神藤(2003)の、個人の学習における持続性の欠如を測定する尺度を使用した。教示文は「普段のあなたについて、最も当てはまると思うところの数字に○印をつけて下さい。」とした。選択肢は「全く当てはまらない」から「非常に当てはまる」までの4件法で回答させた。なお、伊藤・神藤(2003)では持続性の欠如が自己調整学習方略の使用に影響を受けるという因果関係が示唆されており、学習の行動パターンの指標として妥当であると思われる。

D課題価値・コスト感覚尺度(19項目)
仮説モデルの検討には、複数の課題価値尺度を吟味し、学業的満足遅延の先行研究の知見に沿った尺度を応用した。市原・新井(2006)で作成された数学の授業という課題に対する価値を測定する尺度を、大学の学業に対する価値を問うものとして表現を修正して使用することとした。「大学の学習は面白いと思う。」といった興味価値を問う7項目と、「大学の学習は私の将来にとって大切だと思う。」といった獲得・利用価値を問う9項目の計16項目から構成される。
Bembenutty(1999, 2008)は学業的満足遅延に関連があるとした課題価値の中に、コストも含めその影響を示唆している。そのため大学の学習に対する心理的負担感も併せて測定することとし、本研究では市原らの課題価値に、Conley(2012)、Eccles & Wigfield(1995)、Berger & Karabenick(2011)のコストの項目を参考に、「大学の学習には多くの時間がかかってしまうと思う」といった内容の3項目をコスト感覚として付け加えた。教示文は「以下の項目は、大学での学習について述べたものです。あなたの率直な感想をもとに、それぞれの記述に対しあなたの考えに最もあてはまる数字に○印をつけて下さい。」とした。選択肢は全く当てはまらない」から「非常に当てはまる」までの5件法で回答させた。

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