満足遅延研究
「満足遅延」という概念が本研究の主題となる。Rosentweig (1956)によれば、これは我慢する力、すなわち欲求不満耐性の下位概念にあたる。満足遅延は子どもの発達や能力開発において重要とされ、その研究はBandura & Mischel(1965)やMischel, Shoda & Peake(1988) に端を発する。Mischel & et al.は子どもに対しマシュマロ・テストという実験をもって満足遅延傾向を測定している。手続きの内容は、実験者が子どもの前にマシュマロ1個を置き、自分が今から部屋を離れること、もし戻ってくるまでにマシュマロを食べるのを我慢できたらならば、戻ったときに2個のマシュマロを報酬として与えることを告げるというものである。こうして彼は、「欲求不満場面において時間的に後から得られる大きな報酬のために、目の前の比較的小さい報酬で得られる満足を我慢し遅らせることができる性質」として満足遅延を操作的に定義している。そして、教示を行って実験室を出た後の子どもの行動、すなわち1個のマシュマロを我慢できたかどうかを調査している。彼は、実験を行った子どもを10数年後まで追跡調査している。その結果から、実験者が戻ってくるまでマシュマロを我慢できた子どもは、我慢できずに1個のマシュマロを食べた子どもよりも成長後において対人関係能力やストレス処理能力に優れ、学業に対し積極的な姿勢を持っていたことと、実際に優秀な学業成績を納めていたことが明らかになった。以後、満足遅延の獲得は子どもの発達課題のひとつとして重要視されている(山口・門松, 2002)。また、教育現場では満足遅延を獲得可能なスキルとして捉え、授業を通したトレーニングで子どもの満足遅延能力の向上を図る実践研究も存在し、成果が報告されている(那花・松元, 1991)。青年においても、大学生への情緒コントロールのプログラムの実施が試みられた研究の中で満足遅延の重要性が述べられている(松本・柴山, 2011)。このように満足遅延は、個人の能力的な成長に多面的かつ重要な意味を持つものとして、年代を問わず多様な心理学分野からしばしば注目を集めている。
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