【考察】

 本研究の目的は、まず児童期版のスキンシップ尺度を作成し、児童期におけるスキンシップの構造を明らかにし、さらに愛着形成と児童期におけるスキンシップの頻度の二つの観点から、子どもの社会的能力との関連について明らかにすることであった。
この目的を踏まえ、本研究で立てられた仮説は以下の3つであった。
仮説1:愛着が高く、スキンシップの量が少ない子どもは社会的能力が高い。
仮説2:愛着が低く、スキンシップの量が多い子どもは社会的能力が高い。
仮説3:愛着が低く、スキンシップの量が少ない子どもは社会的能力が低い。


1.スキンシップ尺度について
(1)スキンシップ尺度
小学生版のスキンシップ尺度を作成し、スキンシップ尺度の構造について明らかにするために、因子分析を行った。その結果、スキンシップ尺度作成時に想定していた構造とほぼ一致し、直接的な身体接触やゆっくりと時間をかけて関わる心的な交流である「接触・交流」と一緒に体を動かしたりして遊んだり活動をする「遊び」とお風呂の場面でなされる世話の「世話」の3因子構造であることが明らかとなった。つまり、スキンシップは単なる身体的接触だけでなく、遊びや世話などの身体的接触以外の心的な接触の部分なども含まれていることが明らかとなった。本研究で得られた因子は、浜崎ら(2008)の父親・母親・父親と母親のいずれのスキンシップの因子分析の結果とも異なる因子分析の結果となった。スキンシップの内容を幼稚園児用から小学生用に変更したことや、子どもからの評定に変更したこと、行動は同じスキンシップであっても幼稚園児と小学生では捉え方が異なることが考えられる。例えば、浜崎ら(2008)の両親のスキンシップ尺度の因子分析結果の結果では、「歌を歌ってあげる」と「ぎゅっと抱きしめる」は同じ下位尺度に含まれていたが、本研究では異なる下位尺度に含まれた。またスキンシップ間の関連について、それぞれの下位尺度が有意な正の相関関係を示した。つまり、心的接触と身体的接触は相互に関連しながら親と子、両者が繋がっているという実感を子どもに与えていることが明らかになった。

(2)スキンシップと愛着、社会的能力の関連
スキンシップと愛着の関連について、世話と「回避・非表出」以外に有意な正の相関関係がみられた。この結果は、先行研究(姜・河内, 2010) の結果と異なるものとなった。姜ら(2010)では、帰属安心、親密・表出帰属と「回避・非表出」は負の相関を示していたが、本研究の結果では、帰属安心、親密・表出と「回避・非表出」は正の相関を示した。ここでの回避・非表出下位尺度の項目では「とび箱などの苦手なことができなくてこまった時、おうちの人に心配をかけないように家で明るくふるまう」など、「おうちの人」のことを気遣い、あえて回避・非表出をする項目が多い。よって、「おうちの人」のことを配慮し、迷惑を掛けないように気遣っている可能性が考えられる。反対に、親密・表出では「おうちの人」との関わり以外の部分でのネガティブな気持ちであるため、親密・表出と回避・非表出は正の相関関係がみられたものと考えられる。また、回避・非表出は「対人関係」「責任ある意思決定」「他者への気づき」、特に、「対人関係」と「他者への気づき」との強い相関関係がある。つまり、他者(ここでは「おうちの人」)を気遣い、心配させたくないという気持ちが働くため、回避・非表出が先行研究とは異なったことが想定される。今回の調査結果は、森下・藤村(2013)の、女子大学生を対象とした小学生のころの養育者との信頼関係と現在の自己制御機能についての研究において、養育者との高い信頼関係の中で、「自己制御力」が形成され、反対に養育者との低い信頼関係によって「自己主張力」が形成される可能性を示唆していることと一致する。
スキンシップと社会的能力の関連について、接触・交流は全ての社会的能力の下位尺度と有意な正の相関関係がみられた。しかし、遊びと世話については「対人関係」「責任ある意思決定」「他者への気づき」などと関係があるものの、「自己コントロール」や「自己への気づき」との関係がみられなかった。つまり、スキンシップには「自分」のことではなく「他者」のことを考えることができる社会的能力と関連があるということが明らかとなった。この結果から、スキンシップが多ければ、社会的能力が高いということと、スキンシップの種類によって、関連する社会的能力が異なっていることが示された。具体的には接触・交流のスキンシップは全ての社会的能力に、遊びと世話のスキンシップは、他者のことを考えることができる力と関連があることが明らかとなった。中澤ら(2011)は、遊びは子どもにとって最も基本的な活動であり、子どもの社会的な能力を含むさまざまな側面の発達を助長するものであると述べており、本研究の結果は、中澤ら(2011)の結果を支持するものとなった。

(3)年齢差
年齢による差を検討するために1要因の分散分析を行った結果、スキンシップについては遊び下位尺度において、9歳の方が10歳よりも高い得点を示し、接触・交流下位尺度、世話下位尺度において、8歳と9歳の方が10歳よりも高い得点を示したことが明らかになった。このことから、年齢が上がるにつれてスキンシップが減少することが示された。愛着については帰属安心下位尺度、親密・表出下位尺度において8歳と9歳では差が見られなかったが、それぞれ10歳よりも高い得点が見られた。天野(2003)では、母親に対する「甘え・依存」の得点は、学年が進むにつれ徐々に低くなったことが明らかになっている。ここでの「甘え・依存」とは、「こまっているときは、おかあさんにたすけてほしいです。」「しんぱいなときは、おかあさんにはなします。」など、本研究の「帰属安心」「親密・表出」に近いものである。よって、この結果は天野(2003)を支持するものとなった。天野(2002)では、親に対する「甘え・依存」とは対照的に「対立・反抗」は学年が進むにつれ徐々に高くなり、依存の下降、反抗の上昇は小学5年から中学2年にかけて顕著であることが思春期的特徴の1つであると述べられている。さらに、岩田ら(1995)では、もちろん子どもには個人差があり一様に決めつけることはできないという前置きをしているものの、小学校4年生頃を境にして、何らかの発達の質的な変化が生じてくることを発達研究のみならず、子どもの育ちをみる者にとっても経験的・直感的に感じることであると述べており、小学校4年生のころに発達の節目があることを明らかにしている。その背景として、おとなのからだへの生理的な変化への兆しや、他方で論理的、抽象的にものごとを考える能力の急激な発達があげられる。このような発達がもとになって、異性への関心や意識化、自我意識の高まりと自己の相対化、おとなへの反抗と独立への芽生えとなってあらわれてくる。つまり、児童期の後半にかけて心身ともに思春期に向けての変化が準備され、その発現の胎動があらわれてくるのである(岩田ら, 1995)。よって、本研究の結果は10歳が思春期の手前であるため、8歳や9歳と差が表れたことが考えられ、岩田ら(1995)の結果を支持するものとなった。

(4)スキンシップにおける兄弟の有無や出生順の差
スキンシップの兄弟の有無や出生順の差を検討するために1要因の分散分析を行った結果、接触・交流下位尺度、世話下位尺度において、1人っ子と長子の方が中間子よりも高い得点を示した。1人っ子の場合、他に兄弟がいないため、1人当たりの時間が必然的に多くなることが容易に考えられる。よって、1人っ子のほうが手をかけてもらえるため、中間子よりもスキンシップの得点が高くなったことが考えられる。また、長子は2人兄弟以上だが、中間子は3人兄弟以上であり、その点から1人当たりの時間に差が生じ、物理的にスキンシップの得点が低くなったことが考えられる。また、近藤(2010)が、出生順によって親の養育態度が異なると述べているように、長子は「おうちの人」にとって初めてことばかりであるため手をかけ、末っ子はまだ幼く手がかかるため、中間子にはあまり手をかけられない可能性が考えられる。そのため、養育態度の一部であるスキンシップの得点が中間子のみ低いことが想定される。





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