【考察】

 2.男女差
(1)男女ごとのスキンシップと愛着、社会的能力の関連
男女別で各下位尺度の関連を検討するために、男女別で相関分析を行った。その結果、男子と女子で異なる相関関係が見られた。男子では、回避・非表出と「対人関係」「責任ある意思決定」において正の相関が示されたが、女子ではそれらの相関がみられなかった。男子は困った時や寂しい時でも「おうちの人」に配慮し、自分の気持ちを伝えず知られないようにふるまい、自分の状況や本当の気持ちを伝えないことが、周囲の人と健全で価値のある関係を築き、維持する力と他者を尊重し自己の決定については責任を持って意思決定する力と関係していることが明らかになった。 男子は「弱音を吐くのは男らしくない」「強くあるのが男らしい」というジェンダーの影響から、このような結果が生じた可能性が考えられる。 女子では、接触・交流は「自己への気づき」、遊びは「回避・非表出」「対人関係」「他者への気づき」、世話は「親密・表出」、帰属安心は「自己への気づき」において正の相関が示されたが、男子では、それらの相関はみられなかった。女子は「おうちの人」との身体接触や心的交流が多いほど自分の気持ちや能力について認識することができ、遊びのスキンシップが多いほど自分の気持ちを隠すことや人のことを気遣うことや他者の立場に立てるということが明らかとなった。つまり、「おうちの人」と遊ぶ女子は他の人の気持ちを考えられることが示唆された。

(2) 性差と父母による各下位尺度の差
性別と父母を独立変数、各下位尺度を従属変数とした2×2の分散分析を行った結果から性差に焦点をあてて考察する。分散分析の結果からは性別に有意な主効果がみられ、スキンシップと愛着の下位尺度全てにおいて女子の方が男子より有意に得点が高いことが示された。この結果は、天野(2003)の女子の方が男子より母親に対する「甘え・依存」が有意に高く、小学校1年生の段階からすでに母親は女子においては高い依存が向けられる対象であることが示されたことと一致し、女子の方が男子よりもスキンシップが多く愛着を持ちやすいことが明らかになった。

(3)男女ごとの各下位尺度における年齢差
男女による年齢の差を検討するために、男女別で1要因の分散分析を行った。その結果、男子は接触・交流下位尺度と世話下位尺度において8歳の方が10歳よりも高い得点を示し、自己への気づき下位尺度において10歳の方が8歳よりも高い得点を示していた。女子は接触・交流下位尺度、遊び下位尺度、世話下位尺度、帰属安心下位尺度、親密・表出下位尺度において8歳と9歳の方が10歳よりも高い得点を示していた。 堂野(2011)は、小学校4・5年生を対象に友人関係が社会的スキルに及ぼす影響について研究し、社会的スキルには明瞭な男女差があることを明らかにし、その理由として小学生では心理的発達面において女子の方が男子より成熟が早いことを挙げている。思春期は、心理的特徴として親への依存を弱め、時には拒否的な態度を表現して自立を図っていく傾向や(五十嵐ら, 2004)、家族から離れて自分ひとりの世界をもったり、家族よりも仲間とのかかわりを優先して求めたりするようになってくる(岩田ら, 1995)。小学校4年生はまだ思春期とはいえないものの、心理的発達面で男子よりも成熟している女子において、心身ともに思春期に向けての変化が準備され、その発現の胎動があらわれてくる(岩田ら, 1995)と考えてもおかしくはない。よって、女子は思春期の特徴として親への拒否的な態度の影響を受け、一時的に帰属・安心や親密・表出の得点が10歳で減少していることが考えられる。 また、男子では、10歳の方が8歳よりも自分の気持ちや能力が分かるという結果となった。年齢にともなって社会的スキルが発達していると考えることができるが、一方でここでの社会的能力は自己評価であることや女子の方が心理的な発達が早熟(堂野, 2011)だということを考慮すると、結果の解釈は慎重に行う必要がある。

(4)男女ごとの兄弟の有無や出生順の差
男女による兄弟の有無や出生順の差の検討をするために、1要因の分散分析を行った。その結果、男子は有意な差が見られなかったが、女子は世話下位尺度において1人っ子の方が中間子よりも高い得点を示していた。世話下位尺度は「かみをくしや手でとかしてもらう」「ぬれたかみをふいたりかわかしてもらう」など、髪の毛などに関する項目が多く、一般的には女子の方が男子よりも髪の毛が長いため、女子に多いと思われるスキンシップである。さらに、1人っ子は他に兄弟がいないため、1人当たりの時間が必然的に多くなり、中間子よりも手をかけてもらえるため、世話下位尺度に女子にのみ有意な差がみられたものと考えられる。





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