【考察】
4.母子関係と社会的能力
スキンシップ尺度得点と親への愛着尺度の「帰属安心」と「親密・表出」の合計得点「回避・非表出」得点を用いて、グループ内平均連結法によるクラスタ分析を行い、3つのクラスタを得た。そして3つのスキンシップと愛着のスタイルによって「社会的能力」の得点が異なるかどうかを検討するために、1要因の分散分析を行った。その結果、密接群は全ての社会的能力が高く、感情抑制群は「自己への気づき」は低くそれ以外の社会的能力は高く、関係疎群は全ての社会的能力が低かった。
よって、愛着が低く、スキンシップの量が少ない子どもは社会的能力が低いという本研究の仮説3は支持された。また、仮説1と仮説2については、仮説1と2でそれぞれ想定していた愛着が高く、スキンシップの量が少ない子どもと、愛着が低く、スキンシップの量が多い子どもの群が得られなかったため、支持されない結果となった。愛着が高く、スキンシップの量が少ない群および、愛着が低く、スキンシップの量が多い群が存在しなかった。その理由として、本研究において、スキンシップと愛着の間に高い相関関係がみられたように、スキンシップは養育態度と一貫していることが挙げられる。
回避・非表出が高い子どもは、社会的能力のうち自己への気づきのみが低いという結果であった。つまり、「おうちの人」に自分のネガティブな気持ちが言えないことが、自分の気持ちや能力がわからないことと関連していることを示している。
回避・非表出の高低が社会的能力には大きく影響していなかったことから、社会的能力はスキンシップと帰属安心、親密・表出に支えられて育っている可能性が示唆された。これは愛着と学校適応の関連について検討した姜・河内(2010)が、さびしい時や友達とうまくいかなくて困った時に自ら親に接近できたり、気持ちを表したりすることも重要であるが、それ以上に親は援助をしてくれるという期待や安心感を持つことで、子どもはよりよい学校生活を送ることができることを報告していることと対応すると考えられる。
密接群の全ての社会的能力が高かったことから、小学校3・4年生のこの時期の子どもの社会的能力の発達にはスキンシップが必要であることが明らかとなった。富原ら(2002)は、母子「スキンシップ」と仲間入り行動の発達はちょうどtrade offの関係にあり、適切に社会化している子どもでは、むしろ母子の「スキンシップ」は希薄化する傾向にあると述べている。しかし、本研究では、スキンシップが多いほど社会的能力が高いということが明らかとなり、富原ら(2002)とは異なる結果となった。富原ら(2002)の研究では、対象が幼児であり、測定されたスキンシップも幼児用のスキンシップである。しかし、本研究では小学生を対象とし、小学生用のスキンシップ尺度を使用したことから、子どもの成長につれスキンシップの出現量が減少するのではなく、内容が幼児用から小学生用に変化することが示唆された。例えば、おむつを替えるやたかいたかいをするなどが、一緒にお買い物へ行くや一緒にゲーム(トランプ・テレビゲームなど)をして遊ぶなどに移行しているのである。スキンシップは養育態度の一部であり、養育態度は親の養育感の持ち方によって形成される態度である。そのため、容易に養育感を変えることは難しい。親は子どもの成長と共に、一貫した養育態度の上でスキンシップの内容を変えて子どもとのスキンシップを行っている可能性が示唆された。
中澤ら(2011)が、大人が子どもと一緒にたくさんの遊びを楽しみ、遊びを通して子どもの能力を伸ばすことに言及しているように、小学校3・4年生以降においては親が遊びなどの接触によって子どもとの関わりを多く持ち、社会的能力が発達していることが推察される。
つまり、スキンシップの内容をその年齢に合った身体的接触行動や心的接触行動に変え「“両者の関係が繋がっている”と子どもに実感させる」(浜崎・森野・田口, 2008)ことが子どもの社会的能力の発達に関連しているといえる。