【考察】

5.母親の関わり方、子育て支援についての提言
母親のための子育て支援として、行政やNPO団体によって、多くの赤ちゃん教室やママサークルなどが存在する。しかし、それらのほとんどが小学校入学前までの子どもを持つ母親のためのものであり、児童期になると育児について学ぶ場や母親同士が集まって情報交換をする場が少ない。子育て支援として虐待防止プログラムなどは存在するものの、文部科学省は、学校や教師を通しての取り組みしかしておらず、児童相談所も保護者などからの相談や報告がないと動くことができない。本研究の結果から、親たちは幼いころからの一貫した養育態度を持っていることが示唆された。よって、今まで「おうちの人」からのスキンシップが少なく、愛着が形成されていない子どもにとって、急に親とのスキンシップを増やすことは困難であると考えられる。親に関わりを振り返り、再考させる機会を持たせることが必要であると考える。 親や保護者にとって、子育てではいろいろな悩みがある。スキンシップは甘やかしや親への依存に繋がり、自立できなくなるのではないかと不安視されたり、成長と共に少なくした方がいいのではないかなどと思われたりしている。しかし、本研究ではスキンシップの多さが高い社会的能力と関係があることが明らかとなり、小学校3・4年生におけるスキンシップの重要性が示され、社会化を促すためにスキンシップを減らすのではなく、子どもの年齢に応じたスキンシップを続けることが必要であることが明らかになった。 また、「おうちの人」とのスキンシップが少なく、「おうちの人」に対する愛着も低い、関係疎群の子どもは、「おうちの人」のことを配慮しネガティブな気持ちの表出をしないようにしていることが示唆された。そのような子どもには、日頃から「おうちの人」がネガティブな気持ちを表出しやすいように気を掛け、声を掛けてあげることで、子どもは安心できるのではないかと考えられる。文部科学省(2005)は、初期の母子関係のみが人間関係を発達させる決定要因なのではなく、乳幼児期に十分な『愛着』体験がない場合でも、後に適切な愛着形成が行われたことにより人格的に大きく成長した事例より、後からでもやり直しがきく部分があると述べており、愛着体験が不十分であった場合でも、後に愛着形成が可能であることを明らかにしている。また酒井ら(2002)では親、特に母親からの一方的な信頼感は子どもの「反社会的傾向」に対してプラスの役割を果たしていることが明らかになっている。そのため、たとえ子どもから親への愛着が低くても、親が信頼感を持って子どもに接してあげることが大事であると考えられる。 今日、Nobody’s Perfect(NP)プログラムが注目されつつある。これは、カナダで発祥した子育て中の親向けの支援プログラムである。このプログラムでは、子育てに対する「正しい」方法を体得することではなく、親自身が持っている長所に気づき、子どもを育てるための前向きな方法を見出せるように手助けすることを最重要視している(遠藤, 2010)。このNPプロジェクトの名前の通り、「完璧な親なんていない」のである。本研究では、スキンシップが多いほど社会的能力が高いという結果が示されたが、親にも長所や短所があり、スキンシップが得意な親とそうでない親がいる。そのため、必ずしもスキンシップが少ない親が悪いわけではなく、親の子どもを想う気持ちをどのように子どもに伝えていくかが重要だと考える。本研究の結果から、保護者が子どもに少しでも関心や関わりを多く持つ起因になればと思う。

6.今後の課題
本研究では、愛着形成と小学校3・4年生における母子スキンシップの二つの観点に着目し、社会的能力との関連を検討した。 親への愛着尺度において、先行研究(姜ら, 2010)では、帰属安心、親密・表出と「回避・非表出」との間に負の相関がみられたが、本研究では正の相関がみられた。先行研究では、小学校5・6年生という思春期の子どもが対象であったが、本研究ではそれ以前の小学校3・4生が対象であったため、このような違いがあったとも考えられる。よって、今後は、年齢や発達段階による差異も視野に入れた、親への愛着の変化のさらなる検討が必要であることが考えられる。 「1番身近なおうちの人」として、母親を選択した子どもが圧倒的に多く、次いで父親が多く、祖父母を選択した子どもが少なかったため、祖父母を分析対象から外さざるを得なかった。しかし、母子スキンシップの構造を明らかとするための比較対象として、父親だけでなく祖父母との比較をすることで、より母子スキンシップの構造について明らかになるであろう。 また、児童期のスキンシップは乳幼児期に比べ、重要視されていないため、ほとんど研究がされていない。よって、本研究では、小学校3・4年生を対象として、「おうちの人」のスキンシップの構造が明らかとした。しかし、小学校低学年や高学年の他の年齢のスキンシップについてはまだ明らかになっていない。発達段階が異なる他の学年においては、本研究対象とはまた異なる様相をみせるのではないだろうか。そして、小学校3・4年生以外の年齢におけるスキンシップ構造を明らかにすることで、乳幼児期からのスキンシップの変化がより一層明確になることであろう。





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