【問題と目的】


(2)スキンシップ
@スキンシップの重要性
子どもの発達において、養育者、その中でも特に母親の存在は重要なものである。文部科学省(2009)によると、乳児期の発達課題は基本的信頼感の獲得であり、保護者など特定の大人との継続的な関わりにおいて、愛されること、大切にされることで、情緒的な絆(愛着)が深まり情緒が安定し、人への信頼感を育んでいくことが明らかとなっている。 このように、乳児期は養育者との愛着を形成することが必要とされ、そのための手段として、ベビーマッサージやカンガルーケアなどの子どもとのスキンシップをするものが挙げられる。ベビーマッサージとは、オイル等を使用し、母親がわが子に声をかけながら素肌に触れ、少し圧を加え全身をマッサージする方法である(光盛・山口, 2009)。カンガルーケアとは、生まれてすぐに、裸もしくはオムツだけつけた新生児を母親の素肌にのせて、カンガルーの親子のように過ごすことである(日本アタッチメント育児協会, 2007)。これらの効果は、運動機能や免疫力の向上、ストレスの軽減など心身共に良い影響があり、子どもとの愛着を形成するためにも有効であると言われている。光盛・山口(2009)では、ベビーマッサージの体験がある母親は虐待のリスク要因である育児不安・育児ストレスが低く、ベビーマッサージの効果があることを示唆することが示されており、ベビーマッサージにおけるスキンシップが虐待防止の効果が明らかとなっている。 身体接触としてのスキンシップについてはハーローの実験が有名である。ハーロー・メアーズ(1979)の代理母実験では、赤毛ザルの子どもは恐怖テストにおいて、刺激を与えられたときに、哺乳瓶が付いている針金の代理母ではなく、毛布の代理母にしがみ付いていたと報告されている。さらに、平常時も毛布の代理母の周りにいる時間が長かったということが報告されており、赤毛ザルは生理的欲求を満たす存在として母親を認識していたのではなく、身体感覚で親を認識しているという結果が報告されている。このことから、母子関係において身体接触としてのスキンシップが大切だということが言える。

Aスキンシップの定義
「スキンシップ」という言葉は和製英語であり、定義が明確にはなっていない。集英社国語辞典(第3版)には「肌と肌との触れ合いによる愛情の交流」とあり、一般的には身体接触の意味でスキンシップは理解されている。 しかし、スキンシップは身体接触だけでなく、心的な接触も共に働いていると考えられる。看護場面では、高田・長江(2012)がタッチングと同時に微笑みや好意的な言葉など他のコミュニケーション手段も影響していると報告している。具体的には、タッチング使用時に、患者の視野や視線に配慮すること、会話、同意を得てからタッチングを使用すること、傾聴をするなどが同時に行われていることを明らかにした。 佐野・荻野(1990)は、母親がスキンシップをどのように捉えているかという調査を行い、おむつを取り替える、入浴させるなどの身体接触を必要とするもの、話しかける、視線を合わせるなどの心理的なもの、ミルクを飲ませる、散歩に出掛けるなどの身体接触でも心理的接触でもない、その他のものの3要素で構成されていることを明らかにした。この結果から、母親によって、直接的な身体的な接触がない行為もスキンシップであると考えられていることが明らかとなった。つまり、養育者である母親自身は本来の「肌と肌との触れ合いによる愛情の交流」という意味よりもより大きな意味として「スキンシップ」を捉えているといえる。また、富原・坂野(2001)も、母子関係の形成を果たす役割を考えた場合には、身体接触の現象名だけでなく、それの根底にある心理的な相互作用の方が重視されるべきであると述べている。そこで、以上のことを踏まえ、本研究ではスキンシップを、「身体の直接ふれあう身体的接触行動、または身体がふれ合っていなくても、親から子どもにはたらきかけたり、子どもと一緒に何かをしたりすることで“両者の関係が繋がっている”と子どもに実感させることのできる心的接触行動」(浜崎・森野・田口, 2008)と定義する。

B父母のスキンシップの違い
スキンシップにおいて、父親と母親では子どもへ異なる影響があることも指摘されている。浜崎・森野・田口(2008)は、幼児期における父母のスキンシップと養育態度との関連についての研究の中で、父親は世話として行っているスキンシップを、母親は遊びとして捉えていることを明らかにした。父親と母親に共通して、時間をかけて子どもにゆっくりとかかわろうとする「静的交流」と子どもの身体運動機能の育ちに関連する動的かかわりである「動的交流」の下位尺度が見られた。しかし、父親特有の下位尺度として、主に入浴前後の世話にかかわる「世話」、子どもと直接かかわらない形ではあるが、場の共有、視線の共有によって子どもと交流しようとするかかわりの「情緒交流」が見られた。一方、母親特有の下位尺度として、子どもとの遊びの中でかかわる「遊び交流」が見られた。静的交流や動的交流といった共通するかかわり区分がある一方で、具体的には「子どもと一緒にお風呂に入る」という項目が、父親では世話因子、母親では静的交流因子と異なっているなど、父親と母親によって異なる因子構造が見られた。つまり、端からみると同じ行動にみえるスキンシップが、異なる目的のもとでなされている可能性を示唆している。





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