【問題と目的】


(3)スキンシップが子どもの発達に与える影響
幼児期、児童期に接触の満足を得ることはその後の健全な行動の発育には欠かせないものである(Montague, 1971)。 竹澤・相守・牧野・堀(2007)は、保育士が積極的に抱きしめていく事が2歳から5歳の園児の協調性や落ち着き、不安に影響を与えるかを検討し、抱きしめる行為をすることで、園児の乱暴な行為や、おやつ時間の立ち歩きが減少したという調査結果を明らかにした。つまり、抱きしめる行為は、園児の協調性と落ち着きを増し、不安の程度を減少することが示唆された。それと同時に、現場の保育士の印象として、保育士に対し消極的だった園児が、積極的に関わりを求めてくる姿がみられたという結果も得られたことを明らかにした。森野(2001)は、親子のスキンシップと幼児の攻撃性に関する調査を行い、母親の心的接触行動の多さが攻撃性の減少に関連していることを明らかにしている。 また、不安場面においてスキンシップは大きな効果があることが報告されている。文部科学省(2003)は、日本人学校、補習授業校などの在外教育施設における安全対策や緊急時や普段における学校教育活動としての心のケアの手法や事例を取りまとめ、その中でスキンシップの重要性について以下のように報告している。子どもだけでなく、大人も同様に人間は、人に守られている時に安心することができる。それは、人が人(仲間)に守られている時に安心できる本能をもっているからである。子供達の不安を鎮めるためには、親や仲間が守ってくれていることをしっかり伝えることが必要である。その中でも抱きしめる、添い寝をするなどのスキンシップは、子供のリラックスを導く効果的な方法であり、守られていると感じたときに、大きな安らぎを感じるものである(文部科学省, 2003)。 森野(2001)は、親子のスキンシップと幼児の攻撃性の研究の中で、親の性別によって、「心的接触行動」と「身体的接触行動」のそれぞれが子どもの攻撃性と異なる関係があることを報告している。「心的接触行動」とは、主として心にかかわり落ち着きをもたらす機能を持つ身体にかかわりであり、「身体的接触行動」とは、活動的で刺激や興奮をもたらす機能をもつかかわりである。具体的には、母親との心的接触行動低群には見られなかった幼児の攻撃性の減少との関連が、母親との心的接触行動の高群にのみ関連がみられ、心的接触行動の多さが攻撃性の減少に関連している可能性が示されている。 以上のことより、子どもの発達面や情緒の安定においてスキンシップは重要であると言える。

(4)スキンシップと愛着
スキンシップの効果については、子どものそれまでの接触経験や子どもが元々持っている接触への肯定的な感情が影響することが報告されている(相越, 2009)。児童期のスキンシップについて検討するためには、これまでの接触および接触によって形成された母子関係についてあわせて検討することが必要であるといえる。 乳児は、保護者など特定の大人との継続的な関わりにおいて、愛されること、大切にされることで、情緒的な絆(愛着)が深まり情緒が安定し、人への信頼感をはぐくんでいき、特にスキンシップは愛着形成に大きな影響を与えている(文部科学省, 2005)。愛着には、「相互的な関係」「情緒的満足感」「身体接触的関係」という要素が不可欠であり、「身体接触的関係」という点で友人関係とは異なるものであり、子どものこころの健全な発育のためには適切な「愛着」形成が重要であることも指摘されている(文部科学省, 2009)。Bowlby(1973, 1988)によると、愛着(attachment)とは、乳幼児期を過ぎると消え去るのではなく、青年期、成人期以降も持続し、人生において重要な役割を果たす、特定の対象に対する特別な情緒的結びつきのことであるため、乳児期以降の発達段階においても愛着は重要なものであると考えられる。3歳頃になると、愛着対象者主に養育者が自分を保護し、助けてくれる存在であるという確信が子どもの中にイメージとして内在化されるようになる(中澤・中道・榎本, 2011)。これをBowlby(1988)は内的作業モデル(internal working model)と名付け、愛着対象者が不在のときに心の中に母親像に保持する認知的な能力であると説明している。安定した内的作業モデルを持つ子どもは、愛着対象から離れて、探索することができるようになる。そして、びっくりしたり、不安であったり、疲れていたり、気分が悪い時には、愛着対象へ接近する(Bowlby, 1988)。このようにスキンシップによって愛着が形成されることによって、子どもが外の世界に出ていくことができるようになるのである。 つまり、乳幼児期のスキンシップによって子どもから親への愛着が形成され、また、母親との愛着形成の有無によって児童期のスキンシップの意味付けが異なってくることが考えられる。そこで本研究では現在のスキンシップの量と愛着形成の二つの観点からスキンシップが子どもの発達に与える影響について検討することとする。





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