【問題と目的】
2.本研究の目的
これまでスキンシップに関する研究を概観してきたが、いくつかの課題が浮かび上がってきた。
まず、第一にこれまでのスキンシップの研究は乳幼児期を対象としたものが多く、乳児期のスキンシップの重要性はしばしば指摘されている。しかし、幼児期以降の発達段階においては、乳児期ほどスキンシップが重要視されておらず、児童期の子どもを対象とした研究も多くはない。森野(2001)、浜崎・森野・田口(2008)はスキンシップ尺度を作成し、どのようなスキンシップを行っているかを調査し、スキンシップの構造について明らかにしているが、いずれも対象は乳幼児期である。児童期におけるスキンシップの構造、性差について検討することが必要といえる。
また愛着についての研究は、今まで母親の立場から子どもに対する愛着(例えば、榮(2007)など)や子どもから母親への愛着を母親が評定する研究(例えば、桂田(2005)など)が多く行われている。しかし、これまでの愛着やスキンシップについての研究は母親の視点から評定している調査が主であり、子どもの視点から評定された研究は少ない。中田・菅原(2005)は、子どもの発達と養育態度の調査の中で、子どもの発達と母親の養育態度との関係を考慮する際に大切な点は、子どもが認知する母親の養育態度を評定することが適切であると述べている。さらに、酒井ら(2002)は、中学生を対象に、その両親および親友との信頼関係学校適応について調査し、学校適応の諸変数を予測していたのは子が親に抱く信頼感であり、親が子に抱く信頼感はどの変数も有意に予測していないという特徴を示した。つまり、子どもが認知している親への信頼感つまり愛着がより重要な指標になることを明らかにしたのである。よって、子どもが認知する子どもから母親への愛着に焦点を当てることが必要であろう。
第三に児童期におけるスキンシップと社会化の関連については、子どもの社会化にともなってスキンシップが希薄化するかどうかについての検討が十分でないことがあげられる。
そこで本研究はこれまでのスキンシップ研究の中でとりあげられていない児童期の子どもを対象に、子どもが認知するスキンシップと愛着と社会的能力の関連について検討することを目的とする。
小学校高学年になると、発達段階として思春期に入り、心理的特徴として親との関わり方がそれまでと変化する。親への依存を弱め、時には拒否的な態度を表現して自立を図っていく傾向や(五十嵐ら, 2004)、家族から離れて自分ひとりの世界をもったり、家族よりも仲間とのかかわりを優先して求めるようになってくる(岩田・佐々木・石田・落合, 1995)。よって思春期に入る以前であり、一般的にはスキンシップが少なくなっていると考えられる年齢であることや、発達段階から特別な補助がなくても質問紙に回答できる年齢であることを考慮し、本研究では、小学校3・4年生を対象とする。
目的は以下の2点である。
(1) 児童期版のスキンシップ尺度を作成し、児童期におけるスキンシップの構造を明らかにする。
(2) 愛着形成と児童期におけるスキンシップの頻度の二つの観点から、子どもの社会的能力との関連について明らかにする。
3.本研究の仮説
本研究の目的を踏まえ、本研究で立てられた仮説は以下の3つであった。
仮説1:愛着が高く、スキンシップの量が少ない子どもは社会的能力が高い。
仮説2:愛着が低く、スキンシップの量が多い子どもは社会的能力が高い。
仮説3:愛着が低く、スキンシップの量が少ない子どもは社会的能力が低い。