6.アサーション


  井村・石田(2013)は,両親の絆が強いと認知する青年は,他者と関わる時に積極的に自己主張をすることを明らかにした。そして,他者と関わる際に意図的に自己表現を選択することでその場に適応し,より良い人間関係を形成・維持することを指摘し,これは社会的スキルの1つであると述べた。そこで社会的スキルの1つとして自己主張及び自己表現の形式の1つである「アサーション」を挙げる。「アサーション」とは,自己尊重・他者尊重に基づく自己表現の形式であり,自分の気持ちを大切にしながら自分自身で自己表現の方法を選択し,自分も他者も尊重することである(用村・坂中,2004)。玉瀬他(2001)は,自己表現能力は家族関係や対人関係を通して発達する社会的スキルの1つであると述べていることから,社会的スキルである自己表現能力の1つであるアサーション能力は家族関係と何らかの関連があるものであると考える。また,井村・石田(2012)は家族の凝集性が高い青年はその場の状況や集団内のルールや場の雰囲気を乱さないために発言を抑制する傾向があることを明らかにし,適切なアサーション能力を習得するためには家族成員間の相互作用のあり方が重要であると述べた。茂木(2007)は健康な家族機能として凝集性の高さを指摘しており,更に家族の健康性と夫婦関係は密接な繋がりを持つ(宇都宮,1999)ことから,子どもが認知する両親のコミットメントはアサーションに影響することが考えられる。また,笑いに対する意識に関しては対人関係促進効果や感情の表出・隠蔽に関する因子が含まれる,対人場面で用いることで自己主張をせずに感情を微笑みで隠してその場を取り繕う機能があることも明らかにされている(福島,2009)。更に,対人場面において印象形成に関連していることも示唆されていることから,自己表現や発言,主張などのアサーションスキルと関連がみられることが考えられる。

  本研究においては蔭山(2009)の学生用アサーション尺度を用いる。学生用アサーション尺度は,アサーションの中でも特に発言することに重点を置いている。下位尺度は言いたいことを伝えるという主張部分が強く反映される「アサーティブ」,不十分にしか伝えない「ノンアサーティブ」,他人に対する配慮は二の次で自身の意思のみ行使する「アグレッシブ」からなっており,発言抑制に関する尺度(畑中,2003)との関連性が確認されている。井村・石田 (2012)は,蔭山(2009)と同様の発言抑制に関する尺度(畑中,2003)を使用し,家族システムの機能性との関係を検討し,家族の凝集性を低く評価する子どもは自分の言いたいことを上手く言えず発言を控えることや,対人場面において相手と意図的に距離を置くために発言を控えることを明らかにした。これらの特徴は,蔭山(2009)の学生用アサーション尺度の下位尺度である「アサーティブ」と負の関係が確認されている。また,家族の凝集性を高く評価する子どもは場の雰囲気や状況を考慮することで発言を控える特徴を持っており(井村・石田,2012),この特徴は蔭山(2009)の「アグレッシブ」と負の関係が明らかにされている。また,井村・石田(2012)は家族の凝集性が低いと家族成員とのコミュニケーションが十分に行われないことから,他者と会話するためのスキルが習得されないために自分が発言することに自信が持てなくなることを示唆している。以上より,家族の凝集性の認知はアサーションに影響を及ぼすことが予想され,子どもが認知する両親のコミットメントは子どものアサーション能力に影響を与えると考える。

  社会的スキルとの関係については,栗林(2012)がシャイネスの低い人は場の緊張的雰囲気を解消ないし場を盛り上げたりする意図を持ち,関係の維持や調整を図るという特徴をもつ「雰囲気操作」の作り笑いをよく行うことを明らかにしていることから,他者に対する自己表現能力であるアサーションと他者に対して積極的に働きかける社会的スキルとしての作り笑いは関連があると考える。



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