5.社会的スキルとしての作り笑い


  斎藤(2013)は,親と普段からコミュニケーションをとっている青年の方が親と一緒にいるときに笑う傾向にあることが示唆していることから,家族の健康性を支える要因の1つである「コミュニケーション」は子どもの笑いに影響を与えるのではないかと考える。家族が健康であることの基盤は夫婦関係の安定であることから,子どもの認知する両親の関係,すなわちコミットメントは,子どもの笑いに影響を及ぼすのではないかと考えられる。斎藤(2013)は家庭内の笑いについて検討しているが,家庭外での笑いについては検討していないため,本研究では対人関係全般における笑いとして社会的スキルとしての作り笑いに着目する。 作り笑いとは,面白おかしいといった自然な感情によらずに笑顔を見せる笑い反応である(押見,2002)。押見(2000)は,人は他者との相互作用において何らかの目的を達成するために作り笑いを示すことを指摘し,この作り笑いは社会的スキルの1つであると述べている。そして,この社会的スキルとしての笑いを自身のネガティブな感情を解消ないし隠蔽する意図を持ち表出する「感情制御」,場の緊張的雰囲気を解消したり場を盛り上げたりする意図を持ち,関係の維持や調整を図る「雰囲気操作」,他者の行動をコントロールする意図を持ち表出する「行為統制」の3つに分類している。「感情制御」は行為者の演技性のみが関与しており,「雰囲気操作」「行為統制」については行為者の演技性だけではなく作り笑いを表出することで随伴する対人行動の有効性及び表出対象である他者の反応性が強く関与していることが明らかにされている(押見,2000)。また,作り笑いを表出することは社会的受容規準が顕現しやすいことも明らかにされている。作り笑いの主要な動機は自己呈示であり(押見,2000),対人関係において何らかの個人的目的を達成または促進するために行動の自己調整の性質,自分にとってマイナスの効果をもたらす感情を隠蔽するといった社会的受容の性質,更には自己の価値判断に強く依拠した自分本位の性質をもつ(押見,2002)。また,栗林(2012)はこの社会的スキルとしての作り笑いとシャイネスとの関連を明らかにし,シャイネスの低い人は他者に積極的に働きかける側面を有する「雰囲気操作」の作り笑いをよく行うことが明らかにされており,シャイネスの低い人の社会的スキルの高さを反映していることを示唆している。

  笑いに対する意識に関しては,感情を隠蔽することや場の雰囲気を調整するといった機能を持ち,更に対人場面において印象形成に関連していることや,場を取り繕う意図で用いられることも示唆されている(福島,2009)ことから,自己呈示を動機とする社会的スキルとしての作り笑いと関連がみられることが予想される。

  以上のことから,意図や目的を持った作り笑いは社会的スキルの1つであり,社会的スキルとの関連が報告されている笑いに対する意識と社会的スキルとしての作り笑いはなんらかの関連があることが予想される。更に家族システムの安定は子どもの社会的スキルに影響を与えることが今までの研究で示唆されている(井村・石田,2012)ことから,子どもが認知する両親のコミットメントは子どもの社会的スキルとしての作り笑いに影響を及ぼすと考える。



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