3.夫婦関係コミットメント


  夫婦関係の質が子どもの発達やメンタルヘルスに影響を及ぼすことについては様々な研究が行われている。例えば夫婦間の配偶者に対する愛情度が子どもの抑うつに影響する(菅原他,2002)こと,女子青年の認知する両親の関係が女子青年の自尊心,現在の充実感,また不安に影響することが明らかにされている(宇都宮,2004,2005)。夫婦関係の質,すなわち夫婦関係を継続している理由を捉える指標としてコミットメントが挙げられる。コミットメントとは,個人的献身と拘束コミットメントの二次元からなっており,それぞれ「パートナーとの共同の利益のために関係良好性を維持・改善しようとする欲求」,「個人を関係維持に縛り付ける力」と定義される(Stanley&Markman,1992)。またコミットメントは結婚生活を左右する主要な要因として位置づけられる(Rusbult&Buunk,1993)。宇都宮(2005)は,女子青年が認知する両親のコミットメントの構造が,「存在の全的受容・非代替性」,「社会的圧力・無力感」,「永続性の観念・集団志向」,「物質的依存・効率性」の4つの因子からなることを明らかにした。「存在の全的受容・非代替性」とは,配偶者に対する信頼,敬愛といった人格的評価によって結婚生活を継続している要因である。「社会的圧力・無力感」は諦めや同情といった非自発的なコミットメントである。「永続性の観念・集団志向」とは家族の絆や建前といった配偶者に対する評価以外の理由で結婚生活を継続している性質コミットメントである。「物質的依存・効率性」とは,利便性や役割など現実の生活において配偶者と一緒にいることで得られる様々なメリットのために結婚生活を継続している機能的次元である(宇都宮,2005;刀根他,2014)。また,刀根他(2014)は,大学生の認知する両親のコミットメントが大学生の自尊感情に影響を与えることを明らかにした。以上に挙げたような家族システムの安定は,子どもの社会的スキルに影響を与えることが今までの研究で示唆されている(井村・石田,2013)。

  本研究において夫婦関係コミットメントはStanley&Markman(1992)と宇都宮(2005)に基づき,「単なる夫婦関係の継続意欲ではなく,愛情や信頼感を基盤として関係良好性を維持・改善しようとする情緒的欲求」と定義する。 また,青年期は分離・個体化過程を通して親の生き方を客観視し始める時期であることから,父親の夫としてのあり方,母親の妻としてのあり方を客観的に評価することが可能になる(宇都宮,1999)。宇都宮(2015)では,女子青年が認知する両親のコミットメントと女子青年の感じる不安について検討した中で青年期後期の女子において両親の関係が単に良好か否かということだけではなく,両者が何によって繋がっているのか,といった両親の関係の質についてもかなり厳密に評価していることが示唆された。また,Grych&Fincham(1993)は,夫婦の関係の認知について実際の関係よりも子どもからみた両親の関係の方が子どもにとって重要な意味を持つことを明らかにしていることから,本研究においても実際の夫婦関係について問うのではなく,子どもの視点から捉えた両親の夫婦関係について問うこととする。更に,青年期の子どもが認知する現在の両親のコミットメントは子どもの現在の充実感に影響を及ぼす(宇都宮,2006)ことや,家族の健康性が子どもの精神的健康に影響を与える(茂木,1996)ことから,今までの成長過程などといった過去における両親の夫婦関係ではなく,現在の両親に対する認知が青年期の子どもの適応に影響を与えると考えられる。

  以上のことから,本研究では対象を大学生とし,子どもが認知する現在の両親のコミットメントが子どもの適応に与える影響について検討する。



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