2.家族システム理論と夫婦関係


  家族システム理論とは,家族を個人(自己)だけでなく家族成員間,世代,社会(地域)間の相互作用として機能するひとつのまとまり,すなわちシステムと見なし理解することである(赤澤・水上・小林, 2009)。夫婦は,家族の基本的且つ中心的存在であり,家族の健康性を規定する最も重要な指標として位置づけられている (草田・山田,1998)。草田・山田(1998)は「健康な家族」の特徴として肯定的で支持的なコミュニケーションを挙げていることから,家族の健康性を規定する上で夫婦間のコミュニケーションは重要な役割を担うと言える。更に草田(1995)は,健康度が高い家族は両親の結びつきが強く率直なコミュニケーションがあり,凝集性が高いことを明らかにした。茂木(1996)は家族システムの安定を健康な家族として捉え,「健康な家族変数」の1つとして「凝集性」,「相互・個別性」,「コミュニケーション」,「雰囲気」からなる肯定的家族観尺度を作成した。茂木(2007)はOlsonの家族円形モデルを元に凝集性を「家族成員がお互いにもっている情緒的きずな」であると述べており,茂木(1996)の「健康的な家族変数」において,家族機能の健康性を規定する最も重要な変数であることが明らかにされている。更に,家族の「コミュケーション」は「凝集性」を促進することが明らかにされていることから,家族成員間におけるコミュニケーションは家族の健康性を規定する凝集性を高めるために重要であるといえる。また,茂木(1996)は「健康な家族」を考える上で,子どもの精神的健康と家族の特徴の関連性を捉えることは必要なことであると述べており,肯定的家族観を高く評価することと,精神的に健康であることは関連していることを明らかにした。宇都宮(1999)は,肯定的家族観を用い両親がともに夫婦関係に適応していると認知する子どもは,これらの変数をより快適な状況と捉えていることを明らかにし,青年にとって親の結婚生活の適応と家族システムの機能性が密接に結びついていることを示した。更に草田(1995)は,健康度が高い家族の特徴として,夫婦の心理的な結びつきが強く家族成員間で率直なコミュニケーションがとられており,凝集性が高いことを挙げている。また草田(1996)では,心理的な距離が近いと感じている夫婦は夫婦連合が成立するだけではなく,家族の凝集性を高めることも明らかにされている。両親の夫婦関係の歪みが子どもとの関係に持ち込まれることによって,青年にとって望ましくない親子関係が形成され,青年の適応に否定的に作用することも示唆されている(宇都宮,1999)ことから,両親の夫婦関係は子どもにとって適応的にも不適応的にも影響することが考えられる。

  以上より,家族の健康性を高める重要な要因として家族成員間,夫婦のコミュニケーション及び家族の凝集性が挙げられ,家族の凝集性を高めるためには夫婦の関係が重要な要因となっているといえよう。特に青年期の子どもにとって,家族の活発なコミュニケーションは本人と家族との結びつきを強め,子どもの精神的健康の維持に有効である(茂木,1998)。つまり,家族システム理論において夫婦の連合の強さは,家族のコミュニケーション及び凝集性に影響を与えることにより,家族の健康性及び子どもの発達や適応,更には精神的健康においてに何らかの影響を及ぼす重要な指標となりうる。以上のことから本研究では夫婦関係の質に着目する。



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