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問題と目的



3.学習方略


 テスト不安とテストに関する研究として、Gaudry&Spielberger(1971)は、 テスト不安が高い者に望ましいテストの実施形態について検討したところ、教科書持ち込み可のテストと何も見てはいけないテストの効果を比較し、 高テスト不安児にとって、教科書持ち込み可のテストは、成績向上の観点から非常に効果的であることを発見した。 村山(2003a)は、中学生を対象としてテスト形式が学習方略に与える影響を検討し、その結果、授業後に繰り返し空所補充型テストを課された群では 浅い処理の学習方略使用が、記述式テストを課された群では深い処理の学習方略使用が促進されることを明らかにしており、 テスト形式によって学習方略が変化することを示している。ここから、高テスト不安児がテスト形式によって使用する学習方略を変化させており、 テスト形式に合わせた方略を採ることによって不安が減少し、自信をもってテストに臨めるために成績も変化するということが考えられる。 それならば、学習者がテスト前に起こす行動の一つであるテスト勉強で、テスト形式に合わせた学習方略をとることによって、学習者が意図的に不安をコントロールし、 テストに臨むことができると考えられる。

 「勉強」を説明するときに、学習量と学習方略が引き合いに出されることは多い。辰野(1997)は学習方略を 「学習の効果を高めることを目指して意図的に行う心的操作あるいは行動であり、学習を促進する効果的な学習法、勉強法を用いるための計画、工夫、方法のこと」 と定義している。また、市原・新井(2005)は、学習を多くこなしても必ずしもよい学習成果を得ることができるとは限らないとしたうえで、 学習者がよい学習成果を得るための介入の可能性を考えた場合に注目されるものとして、学習方略を挙げている。 堀野・市川(1997)は、高校生の英語の学習動機と学習方略、学業成績の関係について研究を行った。 「内容関与的動機」は方略の使用を促し、関連性のある単語をまとめて覚える「体制化方略」は、授業の復習テストから応用の長文テストまで すべての成績に対して有意な正の影響があったが、語のイメージやニュアンスをつかもうとする「イメージ化方略」や繰り返し書くことを重視する「反復方略」は、 どのテスト成績にも有意な結果を示さないことを明らかにしている。この結果に対して、英単語の学習に関わる方略だけを調べたものであるため、 「体制化方略」と学業成績に直接的な因果関係があるとは言い切れないとしたうえで、英単語学習でかなり方略的に工夫している生徒が、英文法、英文解釈、英作文などの 学習でも同様に学習方法を工夫し、その効果がこのような結果となって現れていると考えることもできると述べている。

 また、村山(2003b)は学習方略の使用の促進要因には、動機づけ要因と認知的要因の2つがあるとしており、認知的要因は動機づけ要因よりも介入が容易であることから、 学習方略の使用と有効性の認知について研究を行った。学習方略の使用に結びつく有効性の認知も、将来的・長期的な有効性の認知と目前に迫るテストで いい点がとれるという短期的な有効性の認知という2つに分けて、それらが学習者の普段の方略使用に与える影響を検討したところ、 学習方略の使用に対し直接的な影響を与えているのは短期的な有効性の認知であり、長期的な有効性の認知は短期的な有効性の認知を介した間接的な影響力しか もっていないことが明らかになった。この結果から、学習者はテストで点を取ることを目的として学習方略を使用していることがうかがえる。 したがって、テスト前の学習方略の使用は、テストで点を取るために学習者がテストをどのように認知しているかを反映していると言える。

 学習方略に関係するものとして、自己調整学習がある。佐藤・新井(1998)は、自己調整学習とは「学習を効率よく行うために、 学習方略の選択・使用を学習者自身が調整してすすめていく学習である」としている。また、自己調整学習に含まれる学習方略の分類は多様であるが、 その中にはいくつかの共通する要素が存在するとしている。まず、モニタリングやプランニングを行うメタ認知的方略は、自己調整学習の要素として 必ず含まれている方略であるとしている。次にリハーサル、精緻化、体制化などの記憶方略も必ず含まれるとしたうえで、必ず含まれるわけではないが重要であると 考えられる要素として、問題解決の際に個人外のリソースを積極的に用いようとする外的リソース方略(広田・佐藤,1997)を挙げている。 そして、これら3種類の学習方略間の関係について、メタ認知的方略によって記憶方略や外的リソース方略の使用も調整されると考えられるため、 メタ認知的方略が3種類の方略の中で最も高次の方略であるとし、記憶方略と外的リソース方略については、記憶方略が個人内のリソースを、 外的リソース方略が個人外のリソースを用いる方略であると考え、これら2つは並立関係にあるとしている。 これらの学習方略の研究では、学習方略の使用を促す要因の検討や学習方略の使用と学業成績の関係の検討はされているが、 学習方略とテストに関わる不安を取り上げた研究は数少ない。

 その中の1つに伊藤・神藤(2003a)の、試験1か月前と1週間前に学習時の不安感と学習方略の使用の関係についての研究がある。 そこでは、試験の1か月前の学習時の不安が高いものほど、試験1週間前に内発的、外発的どちらも含めた自己動機づけ学習方略をよく用いているが、 外発的な自己動機づけは学習の持続性の欠如と正の関連があることを明らかにしている。そして、試験以前の平常の時期に学習全般に関して抱く不安感は動機づけを促し、 学習への粘り強い取り組みをもたらすと述べている。ここでは不安感が学習方略に関係することや、学習方略によって学習の持続性が変化することが示唆されている。 ただし、学習方略が不安にどう影響するのかということは検討されておらず、研究がされていない。 そこで本研究では、学習者が自分自身で選択・使用してコントロールできる方略として、メタ認知的方略、記憶方略、外的リソース方略を学習方略の要素として取り上げ、 学習者が使う学習方略がテストに関わる不安にどのように影響するのかを検討する。