2.テスト不安
テスト状況における不安感を「テスト不安」と呼び、Mandler&Sarason(1952)は、不
安を学習、作業の遂行を妨害するものとして捉える「不安妨害仮説」に基づき「テストで良
い成績を取るのに必要な反応を妨害する不適切な反応」と定義した。また、Spielberger
(1972)によると、テスト不安はテストという状況で生じ、場面に応じて敏感に反応するた
め、「特性不安」ではなく「状態不安」として捉えられている。中野(2011)は状況に依存し
たテスト不安の変動とテスト不安に影響を与える条件について検討を行っており、その結果、
不安感は大学入試が一番高く、次に期末試験、資格試験の順になっていた。これはテスト場面に
よって不安感が異なることを明らかにしており、Spielberger(1972)の知見を支持する結果と
なっている。さらに、低成績の予期や課題の難度の不明さ、評価基準の不明さがテスト不安を
高める要因として挙げられ、個人内においては、テスト時にテスト結果へ注目することで、テスト
への不安感情が高まる可能性を示唆している。
試験に関わる不安の研究として、坂野(1988)は、試験10日前から7日後までの8回の調査で状態不安の継時的変化を明らかにした。
その結果、@試験前日に有意に上昇し、直前にかけてさらに上昇するA試験直前と試験中がもっとも高いB試験直後に急激に減少し、
試験次日には通常のレベルに復帰するC男子生徒に比べ女子生徒の方がより高い不安レベルを示す、この4点を示している。
この研究からテスト不安は、不安の大きさを変えながらも、テスト前からテスト中にかけて続いていく状態的な不安であるということが
考えられる。
藤井(1995)はテスト不安を「主としてテスト前或いはテスト中に生じ、一般に身体的症状を伴い、
妨害的思考や促進的思考を生み出す心理的特性」と定義しており、
テスト不安は妨害的思考だけでなく、テストに対する遂行行動を促進する促進的思考も生み出すとしている。
しかし、不安がテスト直前やテスト中の促進的思考を生み出すとする研究は数少なく、テスト不安によるパフォーマンス低下について、
矢敷・岩永(1997)は、高テスト不安群では低テスト不安群と比較して課題成績が低下していることを示している。
さらに、三浦・嶋田・坂野(1997)は、中学生を対象に、中間考査を学校ストレッサーの1つとして見なし、ストレス反応
、認知的評価、セルフ・エフィカシー、およびコーピングの継時的測定を行っている。テスト不安特性との関連性において、
テスト不安の高い生徒は低い生徒に比べて
@テスト場面によって引き起こされるストレス反応をテストの数日前に高く表出する傾向にあること
Aテストを脅威的であると評価するものの、テストを前向きに受け止めていること
Bセルフ・エフィカシーが低い傾向にあり、セルフ・エフィカシーの差はテスト当日よりテストの4日前に顕著に表れること
Cテストに対して積極的なコーピングを多く実行する傾向にあること、が明らかになっている。
ここから、テスト不安の高い生徒のストレス反応の低減やセルフ・エフィカシーを維持する介入を考える際に、
テスト前の数日が重要な時期となる可能性が示唆される。
また、テスト不安の高い生徒はテストに対する意識が高いことが明らかにされており、テストについて過剰な思い入れを
抱くことがないような配慮を行うことで、
ストレス反応の表出を低減させることができる可能性も示唆している。これらの研究から、テスト不安による緊張からの
パフォーマンス低下やストレス反応が、テストで学習者の学習の成果を発揮することの妨げ
となっていることがうかがえる。本研究においては、不安による不適応な思考や症状を和らげ、
テストで学習者の実力を測りやすくし、定期テストを意味のあるものにすることを目的とするため、
テスト不安の妨害的思考を生み出すという特性に注目する。したがって、これまでの研究より、
本研究ではテスト不安を「テスト前或いはテスト中に生じ、妨害的思考を生み出す状態不安」と定義する。