7. 各尺度の関連について(“キャラ”の切り替えに関して)


7-1. 変化程度と変化動機の関連について

 変化程度は,変化動機の下位尺度「関係維持」「自然・無意識」「関係の質」との間に正の相関がみられた。自分の“キャラ”が状況に応じてどれほど変わるか,また切り替えを行っているかを表す変化程度は,その変化および切り替えの動機が強いほど,その程度が大きくなると考えられる。そのため,変化動機の下位尺度「関係維持」「自然・無意識」「関係の質」との間に正の関係がみられたと考えられる。
 一方で,「演技隠蔽」との間には,相関はみられなかった。これは,“キャラ”の切り替えが多くは自然・無意識的に行われているものであることから,意識的な変化を表す「演技隠蔽」とはあまり関連していなかったためであると考える。


7-2. キャラに対する考え方と変化程度および変化動機の関連について

 キャラに対する考え方の下位尺度「キャラがあることのメリット認知」は,変化動機の下位尺度「関係維持」と「関係の質」との間に有意な正の相関がみられた。一方,「キャラがあることのデメリット認知」については変化動機の下位尺度「関係維持」「演技隠蔽」「関係の質」との間に有意な負の相関がみられた。
 “キャラ”があることについてメリットを特に感じている場合は,コミュニケーションの円滑化に“キャラ”を役立てていると考えられるため,相手との関係を維持するために状況に応じた変化動機である「関係維持」や,相手との親密さによる変化動機であり,その場にあった自己を表出する「関係の質」との間に正の関係があったと考えられる。同様に, “キャラ”があることについて特にデメリットを認知をしている場合は,「関係維持」と「関係の質」に対して負の関係がみられたのであろう。
 加えて,デメリット認知には,「演技隠蔽」との負の関連もみられた。これは,“キャラ”に対してデメリットを感じていることから,意識して“キャラ”をコミュニケーションに活用していないと考えられ,意識的な変化の動機である「演技隠蔽」との間に負の関係がみられたと考えられる。
 キャラに対する考え方と変化程度の間には,有意な相関はみられなかったことから,キャラに対する考え方に関わらず,状況に応じて“キャラ”の切り替えは行われていることが考えられる。


7-3. 変化程度・変化動機と友人関係満足度および友人関係との関連について

 変化動機の下位尺度「関係維持」は,友人関係の下位尺度「気遣い関係群」「関係回避群」「群れ関係群」のすべてに正の相関,「演技隠蔽」は,「気遣い関係群」と「関係回避群」との間に正の相関がみられた。変化動機の中で,「関係維持」は相手との関係を維持するために状況に応じた変化を行うものであり,「演技隠蔽」は意識的な変化の動機のことを指す。状況に応じて意識的に自分を変化させ,相手との関係を良好に保つことは,友人に気を遣いながら関わり合う「気遣い関係群」や,深い関わりを避けて互いの領域を侵さないで付き合う「関係回避群」における,相手に気を遣うことや相手の領域に必要以上に入り込まないという友人関係の在り方の中で行われていることであるといえるのではないだろうか。それゆえ,正の関係がみられたものと考える。
 加えて,変化動機の下位尺度「関係維持」には友人関係の下位尺度「群れ関係群」との間に正の関係もみられた。集団で表面的な関係を好む「群れ関係群」においては,「演技隠蔽」に表されるような意識的な変化は目立って行われていないとしても,相手との関係を良好に保ちたいという「関係維持」の変化動機は同様に働いていると考えられるため,このような関連がみられたといえよう。
 また,変化動機の下位尺度「自然・無意識」は友人関係満足度との間に正の相関がみられた。“キャラ”の切り替えの多くは「自然・無意識」に行われていると考えると,コミュニケーションにおける“キャラ”の使用についても,同様に,自然・無意識に使用されていると推測できる。それゆえ,“キャラ”の使用によりコミュニケーションが円滑に進み,良好な関係の構築に役立つため,友人関係満足度との間にも正の関係がみられたと考えられる。



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