5.本研究の目的
本研究では,河村(2003)や勝田(2009)が述べているような,自己に影響を与える期待に着目をし,自己と保護者それぞれの認識の大きさなどからも自己の側面に関連性があるのかについての検討を行う。本研究において取り扱う期待として,大学生にとって重要な出来事の1つである就職活動についての意識を取り扱うこととした。この,就職活動に関しては鹿内(2007)でも,職業選択時の親からのアドバイスや期待は子どもに影響を与えることが述べられている。そのため,職業選択時に行う就職活動に対しての意識の持ち方や保護者の捉え方も子どもに対して影響を与えていると考えられる。期待に関して,本研究においてはBenesse教育総合研究所(2012)の大学生の保護者を対象にした調査を使用し,就職活動に向かう意識において自己の意識の高さ,保護者の意識の高さを測り,それらを使用して期待の大きさを得る。
また,保護者からの期待を扱う際,自己と保護者との普段の関わりも含めて検討を行う。この保護者との関わりは佐々木(1994)や桜井(2003)でも自己に影響を与える養育態度に関して取り上げられている。そのため,普段の保護者と子どもとの関わり方や養育態度,援助の程度など,保護者との関係性のあり方も自己への影響の要因の1つとなっていると考えられる。この養育態度を測る指標として自律性援助の認知を使用し,普段の関わり方を含め就職活動への意識や期待がどのように関連するのかを保護者との関わりの面においても検討を行う。自律性援助の認知を測るために,桜井(2003)の親からの自律性援助測定尺度を使用する。この尺度は,20項目からなっており,尺度の合計点によって自律性援助の認知が高いかを判断する。この尺度は,動機づけにも関連していると示されており(桜井,2003),本研究においての就職活動への動機づけに関連すると考えたため,使用することとした。
そして,本研究では期待と自己の関連を検討するため,自己受容を指標として使用する。自己受容は板津(1994)や上村(2007)などからも,自己の内面を測るだけではなく,社会的な適応や対人関係においても重要視されていることがわかる。また,自己受容は適応や対人関係以外の他の概念との繋がりも多数報告されているため,どの程度形成されているかが非常に重要な概念であるとも考えられるだろう。その概念を測るために本研究で使用する自己受容尺度は板津(1989)の自己受容尺度(SASSV)である。この尺度は,自己受容を単一的ではなく,複合的な概念として捉えて作成がされており,「生き方」,「他者との関わり方」,「情緒不安定でないこと」,「自信・自己信頼に欠けていないこと」,「自分自身への満足感」といった5因子によって構成されている。ただ自己受容が高いか低いかの判断ではなく,因子ごとによっても検討を行うことも出来るため,自己受容のどの部分に影響が与えられているのかを判断出来ると考える。また,項目についての検討も行い,大学生にとって回答しやすい項目で構成されていると判断出来たため,本研究においてこの尺度を使用することとした。
以上のことから,保護者と大学生自身との認識の大きさの程度や保護者と大学生との関係性が自己受容との関連性を持っているのかについて明らかにすることを本研究の目的とする。
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