4.自己受容


 4-1.自己受容の役割と定義

 自己受容は一般的には「ありのままの自己を受け容れることができており,自分自身を認めることが出来ているかを測る概念の1つ」であるとされている。しかし,自己受容には一般的な定義はあっても絶対的な定義はなく,多くの研究者が様々な方法で自己受容に関して研究を行っている。そして,自己受容は研究者によって様々な定義づけがなされている概念の1つでもある。

 自己受容は自己に関しての概念ではあるが,自己の問題だけではなく対人関係においても重要視されることが多い。板津(1994)は自己受容的な人物について,他者に対して信頼を持った態度を取りやすいこと,他者と対立したり依存的になったりしないこと,対人場面で孤独を感じにくいことの3つを特徴として挙げており,自己受容は対人場面において必要なものであると示している。自己受容ができると自分自身を活かした個性的かつ主体的な考えや行動をとることができるようになるとともに,他者の受容にも繋がってくると考えられるからである。そのため,対人場面において自己受容は重要なものであると位置づけられているのだろう。

 自己受容は対人関係において適応のための指標としても取り扱うことができることからも,本研究においては自己受容を「ありのままの自己を受け容れ,認めることができ,他者との関わりにおいて必要なこと」と定義をし,この自己受容に関して検討を行う。

 4-2.自己受容と他の概念との関係について

 自己受容は対人関係や適応などと結びつけて考えられることが多い。また,自己受容の高さなどからも検討がされていることが多い。高い自己受容の形成に関しては新井(2001)が理想自己と現実自己の差異の面から検討している。新井(2001)では,正の理想−現実自己の違いが小さいほど自己受容が高く形成されていること,負の理想−現実自己の違いが大きいほど自己受容が高いことが述べられている。

 また,上村(2007)では自己受容と他者受容に関して,どちらも高い群が有意に社会的に適応的であると報告している。自己受容と適応の関係については川岸(1972)でも述べられている。さらに,清兼・鈴木・五十嵐(2013)では自己受容は精神的健康や適応の指標として必要なものであるとも考えられている。そして,他にも清兼他 (2013)では自己受容が高いと精神的健康の傾向があると結果がでており,自己受容と他者受容の高さによってコミュニケーション能力の1つである「発言抑制」にも影響があることが示されている。このように,適応や精神的健康などの他の概念に対してもありのままの自己を受け容れる自己受容は重要な影響を持っているとされる。

 以上のことからも自己受容は自己の内面的な部分だけではなく,対人関係においても重要視されている。自己受容との関連性や形成への影響に関して,身近な他者との関係性を用いて自己受容を検討する研究は多くあるが,身近な他者からの期待や他者との意識の差に触れて検討している研究は少ない。そのため,本研究において測る自己の一面の概念として自己受容を取り扱うことにした。



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