3.期待
3-1.期待について
「あの子は試験に合格するだろう」,「この人は手伝ってくれるだろう」など,私たちは日々他者に対して何かを期待をしたり,他者から期待されたりしながら生活しているだろう。自分が何かをする時に他者から期待されることは自分のやる気に繋がったり,自信に繋がったりすることも多く,期待をされないと寂しく感じることも多い。こういったことから,期待をすることやされることは一般的には良いことであると思われている。しかし,期待は状況や内容によっては否定的な側面も持つ。勝田(2009)では対人関係を円滑に作ってほしいと親から期待されている子どもには社会への過剰適応傾向があると明らかにされた。さらにそういった子どもは他者によって意思が左右されやすいことについても示している。また,河村(2003)は,親から子どもに向けられる強い期待は親自身の価値観を子どもに押し付けている可能性があることについて指摘している。このように期待には肯定面と否定面の2面性があると考えられるだろう。
期待が自己に与える影響に関して,河村(2003)は親からの期待の認知と大学生の完全主義傾向との関わりを検討し,期待を高く認知している大学生は完全主義傾向が高くなるという結果を示した。このように,期待は子どもがそれをどのように認知し,どう感じているかによって自己に対しての影響が与えられると考えられる。
3-2.進路への期待
期待には様々な種類がある。河村(2003)では「進学・学業期待」や「社会への適応期待」,「就職期待」,「従順・見栄期待」,「苦労への報い期待」の5つの種類に着目している。また,庄司・藤田(2000)でも期待領域に関しての分析が行われており,「人間的成長」,「社会・経済的地位達成」,「良い子」,「結婚・家庭生活」,「社会貢献」,「健康性」,「身体的活動」,「友人関係」,「進学・学歴」の9つに分類している。こういった領域の中で木澤(2004)は学業への期待に着目し,子どもが自分の学業に対して親が期待していることを認知する方が学業に自信をもつ傾向があることを述べた。また,鹿内(2007)では職業選択においては親の期待やアドバイスが直接的な影響を持つことに関しても示されている。例えば,親が教師であれば子どもも教師を目指すなどの職業の継承が起こることもあるだろう。これは田中・小川(1982)でも述べられており,職業の継承をしてほしいと願う親は子どもへの職業選択の期待は早期に形成し,子どもが成長しても形成された期待は持ち続けられていると考察されている。
大学生にとって職業選択は大きな出来事である。自分の将来に直接かかわることであり,今後の就職活動に向かう気持ちを形作る段階でもある。そういった重要な段階である職業選択にはやはり保護者の介入もあるだろう。介入する保護者は子どもの就職について意識を高く持ち,就職活動に関して前向きに意識を持っているのではないだろうか。就職は大学生自身だけではなく,保護者にとっても大きな出来事として,子どもに期待をしたくなるのではないかと考えられる。
3-3.本研究での期待の扱いについて
松本・渡辺(1983)や河村(2003)などによると,期待には性格や人間関係に関するものや生活態度に関するものなど様々なカテゴリーが存在する。その中でも,健康であることや生活態度などは子どもの発達段階によって大きく変化はせず,恒常的に持たれている期待であるとされている。しかし,就職などの職業に関わるものは発達とともに増加する期待として扱われている。松本・渡辺(1983)からも,就職に関しては大学生の時期に最も期待が大きくなっていることが分かる。また,期待はその事がらに対する自分の気持ちの大きさと自己に対して期待を向けてくる対象の気持ちの大きさでも受け取り方はことなるものと考えられるだろう。本研究では調査対象を大学生とし,調査を行うため,このような就職への意識を保護者と大学生の両方から捉え,それらの大きさを就職活動に対しての期待を測るための指標として検討を行う。
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