1.心理的居場所感とwell-being
個人心理的居場所感と集団心理的居場所感,well-beingとの関連を調べるために,まず,各尺度と各下位尺度間の相関係数を算出した。その結果,全ての尺度と下位尺度の間に1%水準の高い正の相関がみられた。心理的居場所感について,個人と集団それぞれの友人関係の想定のもと,尺度項目に回答させた。回答の際の想定対象が異なっていても,質問している尺度項目は同じ内容であるため,個人心理的居場所感と集団心理的居場所感の間の相関が高いことは妥当な結果であると言える。心理的居場所感と主観的幸福感について,石本(2010)によると,居場所とは一般的に快感情を伴うものであると述べており,現実の居場所感と心理的well-beingに正の相関がみられることは妥当であると考えられている。また,則定(2007)の研究において抽出された下位尺度について,併存的妥当性の検討がされた際,主観的幸福感尺度と心理的居場所感の各下位尺度得点との間に1%水準の有意な正の相関が認められ,心理的居場所感の下位尺度は主観的幸福感に有意な正の相関が認められている。これらのことから,各心理的居場所感と主観的幸福感の間の相関の高さも妥当な結果であるだろう。
しかし,これらの高い相関により,本研究で個人心理的居場所感と集団心理的居場所感を同時に扱おうとすると,個人心理的居場所感と集団心理的居場所感の間に高い正の相関がみられ,個人心理的居場所感と集団心理的居場所感を同時に扱うことは無理であると判断された。そのため,仮説1の検証をすることはできなかった。
そこで,個人心理的居場所感と集団心理的居場所感の差を検討するための方法として,相関係数の比較をした。その結果,本来感と自信の間において個人より集団での相関が強く,被受容感と自信の間においても個人より集団の方が強い相関を示した。下位尺度「本来感」の項目には,「〇〇と一緒にいると,ありのままの自分でいいのだと感じる」や,「〇〇と一緒にいると自分らしくいられる」といった内容があり,下位尺度「被受容感」には,「〇〇に無条件に愛されている」や,「〇〇は,いつでも私を受け入れてくれる」といった項目が含まれている。自分自身が本来の自分らしい姿のままで相手に受け入れられていることを感じることにより,自分自身に自信を持つことへと繋がるのだと考えられる。この,心理的居場所感の下位尺度「本来感」,「被受容感」と主観的幸福感の下位尺度「自信」との間において,個人より集団の方が強く関連していることが示され,仮説2は一部支持された。
また,個人心理的居場所感の下位尺度と主観的幸福感,集団心理的居場所感と主観的幸福感それぞれの重回帰分析を行った。個人心理的居場所感では,個人本来感が満足感に,個人役割感が主観的幸福感,自信,達成感に,個人安心感が主観的幸福感,満足感に有意な正の影響を与えていた。集団心理的居場所感では,集団本来感が満足感に,集団被受容感が自信に有意な正の影響を与えていた。ここで,パス図における矢印の数,つまり下位尺度間での影響を与えた数は集団より個人の方が多く,影響の数においては,仮説2は支持されなかった。集団心理的居場所感について,本来感と被受容感が満足感と自信に影響を与えており,相関係数の比較で個人より集団の方が強い相関を示したものと一部一致した。相関係数の比較に加えて,重回帰分析の結果からも,集団の中では,自分自身がありのままで受け入れられていることが,自信や満足感に繋がるということが改めて示唆された。個人心理的居場所感では役割感が主観的幸福感,自信,達成感と3つに影響を与えている。役割感の項目には,「〇〇の支えになっている」,「〇〇から頼りにされている」といった項目があり個人では特定の一人の友人に対して役割感を感じることにより,役割感の実感が湧きやすく主観的幸福感にも影響しやすかったのだと考えられる。
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