5.被服行動における自己呈示について


 神山(1996)は,被服に関する人間の行動(選択・使用・廃止,等の諸行動)には,自分自身を確認し,強め,あるいは変えるという「自己の確認・強化・変容」機能,他者に何かを伝えるという「情報伝達」機能,他者との行為のやりとりを規定するという「社会的相互作用の促進・抑制」機能の3つの社会・心理的機能がみられることを指摘している。

 このうち情報伝達機能は,被服や被服行動が何らかの意味や内容を持ち,他者に伝わる働きを示している。本研究では,情報伝達機能を中心に考えていく。

 神山(1999)は,被服の情報伝達には6つのメッセージがあるとしている。1つ目は「アイデンティティに関する情報」であり,自分自身に関する情報の呈示を意味し,性別・職業・地位・人種・所属集団によって示される同一性など,自己の意味づけを行うように機能するものである。2つ目は,「人格に関する情報」であり,服装によってイメージされる他者の内面に関する情報を示している。3つ目は「態度に関する情報」であり,どのような被服をどのように着るかによって認知される,社会に対して保守的か急進的かといった社会的な態度に関する情報を示している。4つ目は「感情や情動に関する情報」であり,色彩や柄,デザイン,スタイルは,爽快さ・くつろぎ・優越・充実・悲しみ・喜びなどの心の状態に関する情報を伝えることを示している。5つ目は「価値に関する情報」であり,健康,若さ,性的魅力,遊び,地位,富,自然といった,多くの人が到達,獲得したいと願っている望ましいもの(価値)に関する情報を示している。6つ目は,「状況的意味に関する情報」であり,フォーマルな場か,カジュアルな場か,そのTPOに応じて服装を変えることなど,社会的場面が持つ意味に関する情報を示している。

 このように被服行動には多様な情報が含まれており,非言語コミュニケーションにおいて情報を呈示する手段となっている。そのため,われわれは着る服を選ぶときにほとんどの場合,他者を意識するのである。鈴木・神山(2003)は,被服によって呈示したい自己イメージと被服行動の関連を明らかにしている。被服行動を通して,意図的に他者の自分に対する認知あるいは表を統制しようとすることが考えられる。

  



back/next