5.自己呈示に関わる被服行動と拒否回避欲求との関連


 「拒否回避欲求」と『装いにおける社会儀礼志向』に低い相関がみられたが,『装いにおける社会儀礼志向』の得点について,「賞賛獲得欲求(高群・低群)」×「拒否回避欲求(高群・低群)」の二要因分散分析を行った結果,「拒否回避欲求」の主効果は見られなかった。拒否回避欲求が社会的にふさわしく周囲に失礼にならないような被服を身につけるという被服行動と関連していることは,拒否回避欲求が消極的で善良なイメージの呈示と関連している(菅原, 1986)ことから説明できる。

 一方で,吉澤(2012)は賞賛獲得欲求の高さが有能さを示したいという動機を高める一方,拒否回避欲求がその動機を抑制する要因となる可能性を指摘している。《賢くてまじめな自分》と『装いにおける社会儀礼志向』に比較的強い相関がみられたことから,『装いにおける社会儀礼志向』の項目にみられるような被服行動をとることは,「知的である」,「まじめである」などの有能さを呈示するといった側面があると考えられるため,行動が抑制され,拒否回避欲求の高低が『装いにおける社会儀礼志向』に影響を及ぼさなかったと考えられる。

 また,小島(2007)は,拒否回避欲求が一般的自己呈示行動尺度(谷口・小林, 2005)のほとんどの因子と無相関であったことを示しており,この結果から他者からの否定的な評価を回避することを目標とした場合,何か行動を起こすことによって他者からの評価を変化させるよりも,何も行動せずに現状の評価を維持することの方が否定的評価を回避できる可能性が高いことを指摘している。拒否回避欲求は積極的な自己呈示行動に影響しないため,被服行動においても拒否回避欲求の高低により,積極的な自己呈示行動は変化しなかったことが考えられる。



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