2-1.自己意識の定義について


 他者に見つめられた時,鏡に自分を映してみる時などに私たちは自分自身を意識するが,Duval & Wicklund(1972)は実験を通して,こうした意識の高まりが個人の自己評価や社会的行動に影響を及ぼすことを明らかにした。また,“自己意識”を自己に注意が集中した状態(self-attention)と定義し,TVカメラや鏡を使って実験的にself-attention状態を作り出し,被験者の反応を観察した。この実験により,自己意識と行動のコントロールとの関連が示され,自己客体視理論(Objective Self-Awareness Theory)が体系化された。  

 この理論によると,自己に注意が向かうことによって現実の自己と“かくありたい自己像”,つまり,ある種の理想の自己とが比較され,その間のギャップが強く意識されるようになる。その際,理想の自己に比べて現実の自己の評価が低い場合は,一時的に自己評価が低下し不快感が生じる。そのため現実の自己を“かくありたい自己像”に同調させるように行動が動機づけられるとされている。“かくありたい自己像”は,自己客体視することにより普段以上に具体的に意識されることになるため,自己の振る舞いに関する認識自体に注意がいくことになると考えられる。
 

 このように注意が自己に向けられているときは,自己に対する意識が覚醒している状態である。日常生活のなかでは,常に自己に対する意識が覚醒しているわけではなく,覚醒していない状態の時もあり,むしろその時間の方が長い。したがって自己客体視は一時的な状態として,明確に自己に意識や注意が向き,自己についての省察がなされることと捉えられる。



back/next