2.「否定的感情」の生起について


 金山・山本(2003)は同一組織内に所属する嫌悪対象者に対して持つ感情の構造を検討している。そこでは憎悪感情,拒否感情,劣位感情,非好意感情,憐憫感情,恐怖感情,残余感情の6因子が抽出された。そしてこの6因子の中でも嫌悪対象者と関わりを持ちたくないことを表している「拒否感情」と相手に好意的な感情を感じていないことを示す「非好意感情」が中心的な嫌悪感情として位置付くことを示した。また,斎藤(2003)は嫌悪感情に着目し,嫌いな他者の特徴について因子分析を行い,対人的嫌悪尺度を作成している。この尺度では「自分の相違による嫌悪」「相手への妬みによる嫌悪」「相手の傲慢さによる嫌悪」「相手の自己中心性による嫌悪」「相手の主張過剰による嫌悪」「自分との類似による嫌悪」「相手の外見による嫌悪」「相手の話し方による嫌悪」の8因子が抽出されている。  

 これらの研究は,あくまでもともと嫌いな相手に対する嫌悪感情に着目したものである。しかしながら,一般に好意を持つ他者に対しても一部に否定的な感情を抱くことは十分考えられる。それに関連して立脇(2005)は,異性交際中の否定的感情の構造について,否定的感情を生じさせる出来事との関連から検討している。否定的出来事の生起率は,「相手の欠点が目に付く」「いたくても一緒にいることができない」「相手が自分に対する気持ちを表現しない」「相手が自分以外の異性と仲良くする」の順に高く,いずれも80%以上であること,そしてそれに伴って,「寂しい」「不安」「嫉妬」「いらだち」の4種の否定的感情の生起率が40%を超えていることを明らかにしている。つまり,恋愛対象者という好意感情を抱いている相手に対しても否定的出来事を介して否定的な感情を抱くことが示唆されている。



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