3.否定的感情と対処行動の関連について


 高木(2003)は,否定的対人感情に注目し,「動機・経験要因」と「個人特性」が否定的対人感情の軽減に及ぼす影響を検討している。その中で嫌悪感情と関係重要性について検討したところ,関係が重要と判断されると「回避」という対処行動が選択されにくく,ストレスフルな対人関係状況にさらされつづけるため,嫌悪感情は相手の関係を重要と判断するほど悪化する傾向にあることが示唆された。しかしながら,この研究では,苦手だと感じる人物を想起して回答を得ており,好意対象者を対象としたものではない。重要な関係性であり当然ながら,好意対象者でもある恋愛対象者に対しては,否定的な出来事や否定的感情を経験した際にどのような対処行動がとられるのだろうか。

 この点に関連して和田(2000)は,恋愛関係崩壊時の対処行動尺度,恋愛関係崩壊後の対処行動尺度を作成している。恋愛関係崩壊時の対処行動として,「説得・話し合い」「消極的受容」「回避・逃避」の3因子が抽出された。加えて,和田(2000)は恋愛関係進展度と対処行動の関連を検討している。そして,男女ともに恋愛関係が進展するほど「説得・話し合い」行動が多くとられるが,女性の方がより「説得・話し合い」行動をとりやすく,「消極的受容」行動は男性の方がとりやすいことを示した。また,立脇(2005)は異性交際中の否定的感情と対処行動,関係満足感との関連を検討しており,対処行動を測る際の尺度として和田(2000)の恋愛関係崩壊時の対処行動尺度の項目を現在形に替えて使用している。そして,因子分析を行ったところ,「話し合い」「同調」「一方的主張」「回避」の4因子が見出された。この4因子と否定的感情,関係満足感との関連を検討したところ,攻撃・拒否感情は男性では回避行動を,女性では一方的主張行動をそれぞれ媒介し,関係満足感を低めていること。そして,女性では攻撃・拒否出来事が多いほど,話し合い行動を行い,話し合い行動が多いほど関係満足感が高いことを明らかにしている。これらより,否定的感情の対処行動には性差があることが示唆されている。



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