結果と考察


3.振り返りシートをもとにした各教員へのインタビュー

  振り返りシートに際して,各教員に対してインタビューを行った。交流学級の担任であるA教員は一学期から二学期にかけてのA児の変化として,自分から友達を遊びに誘えるようになったと述べた。A教員はこれに大きく影響したと思われる要因として,他児らがA児への接し方を理解してきたことを挙げた。A教員は学級の児童に対して,「A児にわかりやすく説明すること,上から命令するように指摘するのではなく一緒にやろう」と声をかけるように指導をしてきたという。他児らがA児を通して成長し,あたたかい雰囲気になっていった。そのような雰囲気の中でA児も自分から何かを言えるようになっていったのではないかと述べていた。また,A児の課題として自己主張はするものの言葉足らずな部分を挙げていた。自分の思いを伝えられるもののその理由が言えない,「何が」「何を」が言えない,どの言葉で伝えたらよいのかわからず,「わからない」「したくない」などしか言えないことが多いと述べた。

  特別支援学級担任であるB教員は,A児の特徴について深く考えずに思いついたことを言うことがあり,よく喜怒哀楽が表情や態度に出ると述べた。一学期から二学期にかけての変化として自分から言うことや自分の要求をよく言うようになったことや自分から友達を遊びに誘うようになったことを挙げた。また,以前は休み時間などの遊びの中でA児は一生懸命取り組んでいるけれど友達との間でやりとりになっていないことがあるなどしていたが,最近では特別支援学級での授業などでB児と「○○じゃない?」とやりとりすることができる場面が見られるなど,成長を感じるところがあると述べた。

  同じく特別支援学級の教員であるC教員は,A児の特徴として経験や言葉の少なさから,伝えたいことをどう伝えればよいかわからないところや聞かれている内容とは関係なく自分の話したいことを話してしまうところがあると述べた。A児が「わからない」と言うので周囲がその理由を問うても「何がわからないのか」「どうしたいのか」を言葉にできず,気持ちを表す言葉が特に少ないために「わかならい」しか言えないことや聞かれたことに対して答えられないことで話がかみ合わないことがA児の課題であるという。C教員はその支援として,本番の前に一度練習をさせてみる,いろいろなことを経験させる,いろいろややりとりを人との間で体験することなどを挙げた。

  各教員のA児の見立てをまとめる。A教員は他児がA児とのかかわり方を理解し,あたたかい雰囲気ができたことでA児が話しやすくなったとしていた。A児の成長としては自分から友達を遊びに誘うようになったこと,大きな声で友達と話せるようになったことをあげていた。A児の課題としては自己主張はするものの言葉足らずなところや「嫌だ」「わからない」というばかりで理由が述べられないところを挙げていた。B教員はA児の変化として,自分の要求を言葉で伝えるようになったことや自分から友達を遊びに誘うようになったことを挙げた。また,A児の特徴として喜怒哀楽が表情や態度に出ることを挙げていた。C教員はA児の課題として経験や言葉の乏しさから,伝えたいことが伝えられないことを挙げた。聞かれた内容に関係なく自分の言いたいことを言う,理由を述べられず「わからない」しか言えない,という特徴を挙げていた。

  つまりA児の変化としては自分から友達を誘うようになったこと,自分の要求を言葉にして伝えられるようになったことであると言えるだろう。また,A児の課題としては伝えたいことが伝えられない言葉の乏しさや,理由を尋ねられても「わからない」としか言えないことであると考えられる。
  そしてA児の自己表現に対する各教員の評価から子どもの自己表現にとって重要なものは,「言葉」と「対人関係における経験」,「他児らの理解」そして「気持ちを受容してくれる他者」の4つが支援や他者との関わりの中で保証され,他者との関わり方を理解していくことなのではないかと考える。

  



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