結果と考察


2.A児の自己表現に対する各教員からの評価

  次に,A児の在籍する学級担任1名(A教員),特別支援学級教員2名(B教員・C教員)から回答を得た振り返りシートの結果を挙げる。C教員については,一学期でのA児とのかかわりが少なかったため,二学期のみの回答となった。3名の教員に対して,一学期(6月)に1回,二学期(12月)に1回,計2回振り返りシートへの回答を求めた。振り返りシートによりA児の行動変容についての評価を行ってもらった。「幼児の社会的スキル尺度」(中台・金山,2002)の「主張スキル」,「自己統制スキル」と「目標スキルの児童自己評定尺度」(藤枝・相川,2001)の「たのみ方」,「ことわり方」の項目を参考に作成し,5件法にて回答を求めた。また,A児の様子についてそれぞれに振り返りシートの際に自由記述で記入を求めた。
  まず振り返りシートについて,一学期と二学期での各教員によるA児への評価の得点を表に示した(Table23,24)。
  A児に対する評価の一学期と二学期における変化について検証する。
  対複数友人場面/授業中では,A教員・B教員ともに「自分の考えを素直に言葉で伝えることができる」,「自分の要求を言葉にすることができる」,「心の動きを表情で表すことができる」の得点が一学期よりも二学期で高くなった。そのうち,「自分の考えを素直に言葉で伝えることができる」,「自分の要求を言葉にすることができる」についてはC教員も高く評価していた。A教員のみ得点が一学期より二学期で高くなったのは「生活の中で必要な言葉を使うことができる」であった。しかし,この項目はB教員では一学期・二学期ともに「どちらともいえない」と評価しており意見が分かれた。B教員のみ得点が一学期より二学期で高くなったのは「目や相手の方を見たり,うなずくなどの反応を返すことができる」,「恥ずかしがらずに表現できる」であった。しかし,これらの項目はA教員は一学期・二学期ともに「あまりみられない」と評価しており意見が分かれた。また,「『ありがとう』『ごめんなさい』が言える」については,B教員は評価が「どちらともいえない」に下がっていた。つまり,自分の考えを授業内で発表することや自分の感情を表に出すことについては高く評価されているものの,それを相手にわかりやすく伝えることや相手とやりとりをしながら話すこと,落ち着いた様子で話したり,自分の非を認め謝罪する,相手に感謝を伝える,というようなことについては評価が低いままであった。つまり積極的に授業に参加しようとしているが,他児らと意見をやりとりしたり,相手にわかりやすく伝えるということは困難であり,自分の考えを譲歩したり,相手に感謝や謝罪をしたりすることはなかなかできなかったということが窺われる。
  対複数友人/休み時間では,A教員・B教員ともに「返事をして会話をすることができる」,「聴いたことをもとに話すことができる」,「大きい声ではっきりと言うことができる」の得点が一学期よりも二学期で高くなった。しかし,C教員は「あまりみられない」と評価しており意見が分かれた。A教員のみ得点が一学期より二学期で高くなったのは「自分の考えを素直に言葉で伝えることができる」「自分の考えを整理して言葉で伝えることができる」「生活の中で必要な言葉を使うことができる」「心の動きを表情で表すことができる」であった。そのうち「自分の考えを素直に言葉で伝えることができる」についてはB教員では評価が下がっており,意見が分かれた。また,「心の動きを表情で表すことができる」についてはB教員は一学期・二学期ともに評価が高くなった。B教員のみ得点が一学期よりも二学期で高くなったのは「自分の要求を相手にわかるように伝えることができる」,「目や相手の方を見たり,うなずくなどの反応を返すことができる」であった。そのうち「目や相手の方を見たり,うなずくなどの反応を返すことができる」についてはA教員は一学期・二学期ともに評価が高かった。つまり,自分の感情を表に出すという点では高く評価されているものの,自分の考えを整理して話すことや相手や場に応じて話すこと,また自分の非を認めることや相手に感謝を示すことについては評価が低いという結果となった。このことから,A児は自分の感情を表に出すことはできているが,必ずしも適切な表現がとれているとは言えず,相手に対して感謝や謝罪をするなど自分の非を認めるというような行動はなかなかとることができなかったことが窺われる。





  



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