3.発達障害をもつ子どもの自己表現


3−1.発達障害をもつ子どもの自己表現

  発達障害をもつ子どもの多くは,対人関係の困難さを抱えていることが指摘されており,中でも言語的コミュケーションや社会的スキルに課題を有していることが先行研究でも示されている(瀬底・浦崎, 2007)。DSM-Xの診断基準にも含まれているウィングの三つ組みでは,自閉症の情緒・行動・認知の特徴として,@社会性の障害(対人的相互反応の障害),Aコミュニケーションに関する障害,B想像力に関する障害が挙げられている。これらのことからも,子どもたちにとって対人関係を築いていくことが非常に重要な課題であることが考えられる。

  また,そのような社会性の障害の中でも,対人相互交渉の困難は日常生活に大きな影響を与えることが言われており,鈴木・平野・北・郷右近・野口・細川(2013)は,高機能自閉症児の日常生活場面における対人相互交渉が,心の理論課題における対人相互交渉の因果関係の理解および被行為者の心的状態の推測というプロセスとは異なることを指摘した。その結果,高機能自閉症児の相互交渉の特徴として過去の他者の言動と現在の状態の因果関係については適切に言及できるものの,過去の自身の言動と現在の状態の因果関係については,過去の自身の言動を適切に振り返ることができないことが示された。また,これまで自閉症児には,内省の困難さ(Happe,2003)やエピソード記憶の特異性(Millward et al., 2000)などが指摘されている。これらのことから,自閉症児の多くは,自身の行為について内省することやそれに至る因果関係について誤った解釈をしていることが考えられる。つまり,自閉症児自身が正しいと認識していることが他者から見ると誤った認識と捉えられることがあると考えられる。この状況を浦崎ら(2013)は自己と他者の間に認識のズレが生じているとしている。それゆえ,発達障害をもつ子どもは周囲とのやり取りの中で生じる上手くいかなさに戸惑い,不適切な方法で自己表現をするに至るのでないだろうか。

  また,浜田(1992)は自閉症児の世界形成について述べており,自閉症児は二者関係から三者関係をへて,意味世界へと広げていくことに本質的な困難があることを指摘している。自閉症児の特性として感覚過敏やこだわりがあることなどが知られているが,このこだわりや感覚の独自性が,自己の世界への楽しさや心地よさを感じたり自己世界に没入したりすることにつながることが考えられ,自己の周囲を取り巻く世界との関係性を広げることを困難にしているのではないかと考えられる。

  



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