3.発達障害をもつ子どもの自己表現


3−3.援助要請行動について

  援助要請行動と適応感に至るプロセスには「自己表現」「自己理解」「他者信頼感」「自己肯定感」「対人積極性」を要素とする段階があることが示されており(本田・新井・石隈, 2015),織部(2016)は本田ら(2015)を参考に,自閉症児の援助要請行動の学習段階について,「強みの自己理解」,「他者信頼感」,「自己表現」が育つことで「依頼方法」を獲得するというプロセスがあることを報告している。自閉症児に対して援助要請行動に必要な要素として本田ら(2015)の5つの下位尺度を想定した質問紙調査を取り,子どもたちを3つのグループに分類している。具体的には,@「自己表現」,「強みの自己理解」が低くさらに「他者信頼感」「自己肯定感」がAグループより低く「対人積極性」がBグループより低い,という5つの下位尺度すべてが低い傾向にあるグループ,A「自己肯定感」が高く,「対人積極性」が低いグループ,B「強みの自己理解」,「対人積極性」が高く,援助要請の意図が高いグループとしている。そして織部(2016)は,これら3つのグループが助けを求めることが困難な状況で本田ら(2015)の想定する段階のどこでとどまる傾向があるのかを検討している。その結果@グループは相談の必要性の有無を考える段階,Aグループは誰に相談するかを決める段階,Bグループは相談を実行するかどうか考える段階でつまずくことを示している。こうした枠組みをもとに,子どもがどの段階でつまずき,困難を感じているのかを把握し,段階を踏まえた関わりを行うことが有効な支援につながるのでないかと考える。

  そこで本研究では,自己表現の発達段階と自己表現を育てる具体的な支援の手立てとして,本田ら(2015),織部(2016)を参考に以下の枠組みを想定する。対象の子どもが,活動内容の理解が不十分で参加できずにいる場面や適切な自己表現ができずにいる場面,相手に気持ちを伝えることができず,かんしゃくを起こしている場面に着目し,段階に応じた目標を設定する。自己表現を育てる手立てとして,グループアプローチの中でも大須賀(2016)の示す児童期に関連が深いとされる@受容,A支持,Bカタルシス,C愛他性,D観察効果,E対人関係学習,F相互作用,Gグループ凝集性の8項目を参照し,支援の手立てを想定していく。

第一段階:「自己表現」,「強みの自己理解」が低い。
  この段階では,自分の気持ちを理解する必要性がある。支援者が子どもの気持ちを受容し「今わからなくて困っているんだね。」「ちょっとイライラしているんだね。」などと気持ちを言葉にして伝えることや「一緒にやってみよう」といたわりや励ましの声をかける指示を繰り返し,自分の気持ちを理解することを目標とする。
第二段階:「自己肯定感」が高く,「対人積極性」が低い。
  この段階では,自己肯定感が高く自分の感情を優先し,他者と交わることが少なくなることが予想される。受容と指示をする中でも,「こういうふうに言ってみよう」「○○と言うと伝わるよ」というように適切な自己表現はどのようなものかを共に考え,他者に目を向けさせていくことを目標とする。
第三段階:「強みの自己理解」,「対人積極性」が高い。
  この段階では,援助要請行為を行いやすい段階であるが,自分の気持ちを上手く相手に伝えることや適切な場面で援助を求められるようになることには課題が残ることが予想される。「あの子は○○しているよ」と声をかけ他者の言動を観察することや仲間との対人関係の中で,自分から伝えることやどのように伝えるのか理解していくことを目標とする。

  



back/next