総合考察
3.子どもの自己表現を育てるかかわりについて
子どもの自己表現を育てるかかわりとして,交流学級担任の取り組み,特別支援学級担任の取り組み,教育ボランティアとしての関わりについて考察する。
今回クラスの仲間関係が大きく変わった要因となったのは,担任が他児とA児のやりとりを見守り,他児が関わり方に困っている場面で他児に対して適切に声をかけ,他児らがA児を理解できるように支援をしていた。そのようなやりとりを繰り返していったことが他児がA児との関わり方を理解することにつながっていったのだと考えられる。このことから教員がA児を取り巻く環境に働きかけ,A児も他児も過ごしやすい関係づくりをしていくことが重要だということが言えるだろう。
特別支援学級担任はA児の特徴を理解し,A児が意欲的に授業や活動に参加できるように支援を行っていた。またA児が不適切な行動をした時には適切に指導し,その後A児が活動に戻れるようにフォローを手厚く行っていたことで,A児は授業や活動になかなか意欲的になれない時や不適切な行動をとってしまった時でも,他児らとともに活動に参加してくことができたのではないかと考えられる。また,特別支援学級担任はA児とB児の対等な関係性の築きに対して支援を行っていた。A児とB児は特別支援学級で共に学習しており,普段から二人で行動することが多かった。学習や活動の進み具合としてはB児の方が先に進み,B児がA児を待っている形になることが多かった。しかしそのような中でも特別支援学級担任がごほうびシールを集めるなど二人で競い合える関係性や共に作業を進めることで対等な関係性を常に意識して作り出していた。このような関係性が保証されていたことが,A児が劣等感を抱かずに自己を表現できる安心感や心の落ち着きを作り出していたのではないかと考える。
そして,教育ボランティアという教員のように指導する立場ではない支援者がいたことも影響を与えたのではないかと考える。A児と他児らとの関わりが減少し,A児が自己世界に没入していた時でも,友達でも教員でもないボランティアと休み時間に自己世界を共有し楽しんだことが,他者との関わりが途切れることなく続いていくきっかけとなり,他児らとの交流が増加する一因になったのではないだろうか。すなわち,教育ボランティアとの斜めの関係性がA児と他児らとの横の関係性をつなぎとめる役割を担っていたのではないかと考えられる。また,教育ボランティアはA児と直接関わり,A児とともに考え一緒に課題を乗り越えようとする関係の中での支援を行っていた。A児が「やりたくない」としか言えず活動に参加するかどうかも決められない時には,気持ちを受容したり,選択肢を挙げて一緒に考えたりするなどしながら一緒に活動に参加した。このような関係性は友人関係とも指導者である教員との関係とも異なる,身近な大人としての斜めの関係である。ボランティアと言う立場を活かして,子どもの気持ちに対して「一緒に悩む」「一緒に考える」という受容的な支援をすることができるのでないかと考える。また,教育ボランティアと一緒に考え,一緒に活動していく経験が友人関係におけるリハーサルの役目も担っていたのではないだろうか。
A児の自己表現に対する各教員へのインタビューから,子どもの自己表現には,「言葉」と「対人関係における経験」,「他児らの理解」そして「気持ちを受容してくれる他者」が重要であることが窺われた。
これらのことを踏まえ教員ができる支援をまとめると,@子どもの言葉を育てること,A子どもの経験を増やすこと,B他児らに対して働きかける,C子どもの意図を汲む,ということが考えられる。
このうち,B学級で他児らに対して働きかける,については指導者という立場である教員からの働きかけが重要となるが,@子どもの言葉を育てる,A子どもの経験を増やす,C子どもの意図を汲む,は教員にもボランティアにもできる支援である。子どもの支援に教員とは立場の異なるボランティアなど複数の支援者が関わることは支援の多様性という点で意味を持つのではないだろうか。
このように学校にはさまざまな立場で子どもを支援できる存在が多くいる。そして本研究で観察対象となった学校では,特別支援学級担任と支援員・教育ボランティアとが密に連携し,気付いたことや情報を共有していた。それにより子どもたちを理解し適切な支援を行うことにつながっていったのではないかと考えられる。教員と支援員・教育ボランティアとが連携し,それぞれの役割や立場を共有し明確にして子どもたちと関わっていくことで,子どもと外界とのつながりが広がっていくと考えられる。
←back/next→