5.質的研究
5−1.質的研究とは
大谷(2017)によると質的研究とは,対象を「量」ではなく「質そのもの」において把握する研究であり,量的研究では測ることのできない数値化が困難なものを測定していく研究である。大谷(2017)は質的研究の特徴を9つ挙げている。
@仮説検証を目的としない
A実験的研究状況を設定しない
Bインタビューや観察から言語データを作成する
C言語データを分析する
Dデータ以外の得られる資料も総合して検討する
E研究者の主体的解釈を積極的に活用する
F研究対象の有する具体性や個別性を通して一般性や普遍性を追求する
G心理・社会・文化的な文脈を考慮してデータを分析する
H現象に内在・潜在する意味を見出して理論化する
このような質的研究の特徴を理解した上で,研究を進めていく必要があると考えられる。次に大谷(2017)は,質的研究には量的研究と同じく十分に科学的な手続きが必要であると述べており,そのデータ分析の手法として,
@コード化
A理論的コード化
B質的データ分析
を挙げている。@コード化には記録を読みながら探索的に自由にコードを付す生成的コーディングと,選定あるいは標準化されたコード群からコードを選んで付すテンプレートコーディングがある。A理論的コード化とは,グラウンデッドセオリー(Glaser&Strauss, 1967)で行われる独特のコーディングである。グラウンデッドセオリーとは,理論を構築するために多段階のコーディングを行う分析方法であり,オープンコーディング,軸足コーディング,選択的コーディングと,徐々に抽象度を高めて事象の背景や構造的広がりを検討して理論を浮かび上がらせていく。B質的データ分析とは,付したコードを手掛かりにデータを変換,縮約して表示し,データに潜在する意味を検討していく分析方法であり,@とAの要素を併せ持つ。具体的な分析方法としては,Steps for Coding and Theorization(以下,SCAT)(大谷,2008)がこれに当たる。グラウンデッドセオリーは,データ採取から理論化までの研究デザイン全体を規定するフレームワークであるとされているが,グラウンデッドセオリーが適用できるのは比較的大規模なデータの採取であり,小規模なデータには適用できないということも指摘されている(大谷,2011)。一方,SCATはインタビュー記録や観察記録などの小規模な言語データやすでに採取した手持ちのデータを分析することに適しているため,本研究でもSCATを用いて分析をしていく。
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