3.ロールレタリング


3−1. ロールレタリングとは

 筆記療法の1つであり,日本で古くから実践されているロールレタリング(Role Lettering)という技法がある。福島(2005)は,「受取人を想定し,投函しない手紙を書き,返信を想像して書く手続きによって,自分の思考・感情の流れを受け止め,自身の生き方を振り返る一種の自己カウンセリング法」としてロールレタリングを扱っている。春口(1995)は,ロールレタリングとは,「自分自らが,自己と他者という両方の視点に立ち,役割交換を重ね,双方から交互に相手に手紙で訴える。この往復書簡を重ねることで,相手の気持ちや立場を思いやるという形で,自らの内心に抱えている矛盾やジレンマに気づかせ,自己の問題解決を促す方法」であると定義づけている。

 ロールレタリングによる手紙の相手の選定は,基本実施者当人に任せる形式となっているが,実践や研究の主訴,心身の状態や実施者の特性に応じて,条件を限定する場合もある。佐瀬(2014)は,「今までの人生で優しく理解し温かく支えてくれた人」を1人思い浮かべ,その人に悩みを相談するという内容で手紙を書くようにという教示を通して,本人が書きたいことを書き,それを受容して返信を書くことは,自己の問題への気づき,肯定的な思考を促進するといった心理的効果が見られたことを報告している。榎本(1997)は,大学生と高校生,中学生,小学生の自己開示を比較し,その結果,大学生と高校生において,最も親しい友人に対して最も自己開示をしやすいことを報告している。本研究では,佐瀬(2014)と榎本(1997)を参考にし,想起する受取手を「優しく理解し温かく支えてくれる友人」に限定する。



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