18.ドリームマップ授業前後での尺度ごとの平均値の比較
ドリームマップ授業の前後において、個人内の変化を検討した(Table 3参照)。結果、自己効力感の行動に対する努力の側面、社会的な行動に対する評価、楽観性、個人基準での肯定的な評価、学習意欲の自ら学習に取り組む側面、進んで学習に参加する側面、授業に対する興味関心の側面において、ドリームマップ授業後に対して有意な差が見られた。これは、一般社団法人ドリームマップ普及協会(2015)の行った効果測定の結果ともおおむね一致する結果となった。
自己効力感については、ドリームマップ授業を受講したことによって将来の夢が形成されたことで、行動に移す努力をしようという気持ちの変化が見られたのではないかと考えられる。坂野・東條(1986)によると、自己効力感が高いほど、行動する為の努力をしようとし、社会的に自分の行動を高く評価するようになるとしている。ドリームマップ授業で将来の夢を考えたことが、将来の夢を叶える為の努力を促し、自分が将来の夢を叶えることについて、高く評価するようになった為、自己効力感が向上したと考えられる。
楽観性については、ドリームマップ授業を受講し将来の夢を持つことで、将来をポジティブに予測する力がついたのはないかと考えられる。ドリームマップは将来の夢が叶ったと仮定して明るい未来のことを考えて作成する。Scheier & Carver(1985)の定義のより、楽観性はポジティブな結果を予期する信念を持つ傾向であることから、ドリームマップ授業によって明るい未来を想定する練習を行うことで、将来をポジティブに予測する信念が身に付いたのではないかと考えられる。
また、個人基準での肯定的な評価の値が授業前後で有意な差が見られたことについて、将来の夢を持つことよって、自分自身の基準において自分を高く評価する傾向になったのではないかと考えられる。ドリームマップ授業を受講し、将来の夢を描くと、自分にもいいところや夢があるという再発見をすることによって、自分を肯定的に捉える部分が増えたことによって、自分への評価が高まったのではないかと考えられる。しかし、個人基準での否定的な評価と社会基準での否定的な評価の値に授業の前後で有意な差が出なかったことから、ドリームマップ授業では否定的な自己の捉え方が解消されなかったのではないか。ドリームマップ授業を受講し、将来の夢を形成したとしても、個人基準・社会基準で自分を否定的に評価する項目や内容がなくなることはなかったのではないかと考えられ、ドリームマップ授業の2限目に自分の性格のリフレーミングのワークショップを行うが、子どもへの影響は少ないのではと考えられる。さらに、社会基準での肯定的な評価の値にも有意差が出なかったことから、他の人よりも自分にはいい所があるという肯定的な評価が、授業前と授業後で変わらず、あまりされていないことが分かった。このような結果になったことについて、ドリームマップ授業が他人と比べることや、他の人から褒められるといったような活動をせず、自分と向き合うことの方が多い活動だからではないだろうか。5・6限目のドリームマップの発表以外、自分と向き合い自分のことについて考える活動を行う。発表も、自分以外の人に対して将来の夢を伝えるが、それが「他の人よりもいいところが自分にはある」という評価には繋がらないと考えられ、今後改善の余地があると考えられる。
また、学習意欲について、授業前後に有意な差が見られたことから、ドリームマップ授業で将来の夢を描くことが学校場面における学習に対する意欲に影響を与えることが示唆された。この結果について、ドリームマップ授業を受講し将来の夢を描くことで、日頃の勉強に対しても意味や興味を見いだせたのではないかと考えられる。将来の夢を描く際に、今の自分と未来の自分をリンクさせることが重要なポイントとして、ドリームマップ授業では扱われる(Figure 2参照)。また、5・6限目のドリームマップを発表する際、今からでもできる夢を叶えるために行うことを発表の内容に盛り込むことから、将来の夢に対し、今の自分ができることを考える。これらのことから、将来の夢と今の自分ができることを繋げて考える事で、一番身近である学校場面での学習に意欲を見せるようになったのではないかと考えられる。
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