20.群分けを含めたドリームマップ授業前後での比較検討


 20-3.授業前後と将来の夢の関連

  ドリームマップ授業において描かれた将来の夢が、ドリームマップ授業が与える影響に対して関連がないかを検討した(Table 8)。結果、授業前よりも授業後において自己効力感の行動に対する努力の側面、社会的な行動に対する評価、楽観性、学習意欲の自ら学習に取り組む側面、進んで学習に参加する側面、授業に対する興味関心の側面、個人基準での肯定的な評価に有意な主効果が見られた。また、夢小分類において、楽観性、学習意欲の自ら学習に取り組む側面、個人基準での肯定的な評価に有意な主効果が見られた。授業後において、有意な主効果が見られたものについてはおおむね先述したとおりの結果である。

 楽観性について、〈世界有名〉と〈周囲援助〉は〈個人本意〉に対し有意な主効果が見られ、〈キャッチコピーなし〉は他のカテゴリーよりも得点が低かった。楽観性はポジティブな結果を予期することなので、世界に通じるビジョンや、周りの人を助けているビジョンが見えている将来の夢を描く人は、個人基準のみの将来の夢を描いた人よりも楽観性を高く持つ傾向にあるのではないか。

 学習意欲の自ら学習に取り組む側面について、〈憧れ〉が〈自己実現〉、〈個人本意〉、〈固有名詞〉、〈キャッチコピーなし〉より得点が高く、〈笑顔〉が〈自己実現〉と〈キャッチコピーなし〉よりも得点が高く、〈世界有名〉と〈周囲援助〉と〈個人本意〉が〈キャッチコピーなし〉よりも得点が高かった。〈憧れ〉は、自分が誰かに憧れるカテゴリーではなく、人々の憧れになるというカテゴリーである為、自ら学び、周りにすごいと思われたいという承認欲求が高いと、自ら学習することを規定するのではないだろうか。速水(1987)は、3つの学習動機を見出し、その一つは、承認志向による学習動機を見出したため、本研究の結果は速水(1987)の研究結果に近しいものであると考えられる。つまり、憧れられることを夢見た子どもは、周りの承認に繋がることを進んでやろうという傾向があるのではないかと考えられる。また、〈笑顔〉は、誰かを笑顔にするや、笑顔でいられることを含んだ将来の夢のカテゴリーである。〈自己実現〉のカテゴリーは、自分の将来の夢についての記述しかなく、それ以外のことには興味を示していない傾向がある。反対に、笑顔を挙げる子どもは自発的に学習する意欲が高い傾向にあるだろう。

 個人基準での肯定的な評価について、〈個人本意〉が〈自己実現〉よりも得点が高く、〈世界有名〉、〈周囲援助〉、〈周囲援助(対動物)〉、〈笑顔〉、〈個人本意〉が〈キャッチコピーなし〉よりも得点が高かった。個人基準での肯定的な評価は自分のことをどれだけ感情的に満足し、認知できているかを測定する尺度である為、〈個人本意〉が〈自己実現〉よりも得点が高かったのは、より自分のことを肯定的に捉えている結果と言える。

 いずれの主効果が見られた結果においても、〈キャッチコピーなし〉の得点が低いことが多かったが、これは職業のみの将来の夢よりも、より具体的な将来の夢を描く人が、よいという結果であり、職業教育においても、より具体的なビジョンを描くことが重要になるといえる。

 また、大分類についても検討した(Table 9参照)。結果、授業前よりも授業後に方が、自己効力感の行動に対する努力の側面、社会的な行動に対する評価、学習意欲の自ら学習に取り組む側面、進んで学習に参加する側面、個人基準での肯定的な評価に有意な主効果が見られた。また、夢大分類において、自己効力感の社会的な行動に対する評価、楽観性、学習意欲の自ら学習に取り組む側面、授業に対する興味関心の側面に有意な主効果が見られた。授業前よりも授業後に対して、有意な主効果が見られたことについてはおおむね先述した通りであろう。

 夢大分類においての主効果について、自己効力感の社会的な行動に対する評価は、【他者評価】は【不明瞭】より、【他者評価】は【自己】と【不明瞭】より有意な主効果が見られた。坂野・東條(1986)の一般性セルフ・エフィカシー尺度は、社会的な場面で自分の行うことを高く評価することを測る尺度であるので、他者に対して意識している将来の夢を描いているからではないかと考えられる。

 楽観性に【他者評価】、【その他】は【不明瞭】より、【他者影響】は【自己】と【不明瞭】より有意な主効果が見られた。楽観性とは先述した通りポジティブな結果予期のことであることから、将来が不明瞭な夢を描くよりも、他者と絡めて考えられる具体的な夢を持てると、楽観性は高くなるのではないか。

 学習意欲の自ら学習に取り組む側面と授業に対する興味関心の側面は、【他者評価】、【他者影響】、【自己】は【不明瞭】より有意な主効果が見られた。真田ら(2014)によると、自律的学習行動は自ら学習に取り組むことに関われるかを測定する下位尺度になっている。授業に対する興味関心の側面と合わせて考えると、将来の夢が不明瞭であるほど、学習や学校での授業に興味を示さない傾向にあるのではないかと考えられる。

 また、5年生と6年生に分けて、将来の夢の大分類についても検討した(Table 10,Table 11参照)。その結果、5年生で、自己効力感の社会的な行動に対する評価において、授業前よりも授業後に有意な主効果が見られた。また、6年生では、個人基準での否定的な評価において、交互作用が見られた。【他者評価】の将来の夢を描くと、個人基準での否定的な自己評価が授業後に低くなるという結果であった。

 6年生でこのような結果になったことについて、他者から評価されたという思いを持つと、自分の中に嫌なところがない、もしくは少ないと感じる様になるのではないかと考えられる。【他者評価】の将来の夢は、有名や憧れなどの項目が入っている将来の夢になっており、特に、誰かに評価される・認められることによって、夢が叶ったとされる部類のものである。また、個人基準での否定的な評価は、原田(2014)より、個人基準での否定的な自己評価であることから、誰かに評価されたり、認められたりする将来の夢について描こうとするプロセスを経ることで、他者の評価に目を向けるようになり、自分についての否定的な評価について、あまり目を向けなくなるのではないかと考えられる。

 また、5年生では交互作用が出なかったことについて、6年生ほど、将来のビジョンと今の自分とのリンクがしっかりと行われなれていない事が考えられるのではないか。文部科学省(2009)によると小学校高学年の発達の課題を挙げており、その中の一つに「実社会への興味や関心を持つきっかけ作り」というものが含まれている。5年生は、小学校高学年の半ばの学年であることから、これらの発達が未熟であることが想定される。また、小出・高橋(2011)は、児童の発達段階に合わせた小学校の相談室のあり方について研究し、5年生の発達の課題と特徴の一つを「話しながら自分に向き合う」としており、まだ向き合いきれていないことが伺えることから、将来の夢を描いたとしても、自分とまだ向き合いきれていない為、現在の自分の信念などに影響を与えないではないかと考えられる。



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