2. キャリア教育ドリームマップ授業
2-5. ドリームマップ授業の各授業時間について
さて、ドリームマップ授業は1限目から6限目までを使用する。各授業時間によってねらいとしていることが変化しており、それらを通じて先程述べた力が身に付くとされている為、ここから各授業時間について検討したい。
1時間目は、ドリームマップ全体の説明と、ワークによって自分を知る自己認知についての活動を行う授業である。自己認知のワークでは、まず、自分自身についての質問に答えていく。「好きな食べ物は何ですか?」や「好きな教科は何ですか?」などの、自分の外面について尋ねる質問から、「大切にしているものは何ですか?」や「うれしいと思うことは何ですか?」「あこがれの人は誰ですか」などの、自分の内面について尋ねる質問について各自で回答する。ねらいは、自分が今、何が好きであるか、何が大切であるかを再確認することによって、自分が将来もしていたいことや、今後も大切にしていきたいものを見つけることである。現在好きなものや大切にしたいものは、将来の夢を形成する為の諸要素となる為(学校ドリームマップ授業実施報告書,2016)、自分自身の将来大切にしていきたいことを考え直すものである。この自己認知のワークの後、自分のことをどのぐらい好きかをコップに水を入れることで測る、自己承認を自己評価によって測定するワークを行う。片方のコップに水を入れて、全体の授業の最後に、もう片方のコップに水を入れ、ドリームマップで自己承認の度合いがどの程度上昇したかを測る。
2時間目は、自分のいいとこ見つけのワークと、将来の自己像について考えるワークを行う。自分のいいとこ見つけのワークは、まず「おしゃべりが好き」な人のいいところ(主に性格)を全体で考え、その後子ども達自身で考えるワークを行う。次に「怒りっぽい」人のいいところ、性格を全体で考え、その後子ども達自身で考える。最後に、自分の性格をひとつ書き、自身で自分のいいところを見つけるワークを行う。自分の性格を見つめ直すことにより、自分に対する理解をさらに深めていくことができる。
将来の自己像について考えるワークでは、将来の夢が成就すると仮定した年齢になって、将来の夢を叶えた自分がその年齢現在で、どのように過ごしているか、どんなものが大事であるかを考えるワークである。これは、ドリームマップの下書きになるものである。自分の将来の自己像を想定して、質問に回答していく。それは、将来の夢と関するキャッチコピーを答え、その後、夢の実現の為4つの象限に分類された質問に答える構成になっている。
将来の夢に関するキャッチコピーとは、自分が将来の夢を叶えたとき、何を重視した将来の夢を叶えたのかを考えるものである。具体例を挙げると、将来の夢がプロ野球選手という男の子がいる。1人は「阪神タイガースのレギュラーになったプロ野球選手」というキャッチコピーのついた将来の夢になり、もう1人は「三冠王を達成したプロ野球選手」というキャッチコピーのついた将来の夢を書くとする。このキャッチコピーを付けた将来の夢を考えることによって、自分がどんなことに重きを置いているか、どんなことを大切にしておきたいかなどを明確化することができる。
4つの象限については、一般社団法人ドリームマップ普及協会(2017)の示した図を引用し、Figure3に示した。一般的な象限の位置とは違い、左下から反時計回りに、第1象限・第2象限・第3象限・第4象限という配置になっている(以後、ドリームマップ用の配置で象限を論ずる)。第1象限と第2象限は、「自分」の将来の自己像についての質問になっている。第1象限は「どんなものを食べているか」「どんな家に住んでいるか」などの物質的なことである。第2象限は「休日は何をして過ごしているか」「宝物は何か」などの精神的なことの項目になっている。第3象限と第4象限は、「他者」や「社会」についての質問になっている。第3象限は「周りにいる人はだれか」「周りにいる人にしてあげたことは何か」などの他者についての項目になっている。第4象限は「住んでいる町はどんな町か」「どんな世界になっているか」などの社会に目を向けるような項目になっている。これらの項目に答えることによって、将来の自己に対しての見通しを立てる。
以上4象限の項目に回答しながら将来について考えることによって、自分の将来の夢が叶った時の具体的な見通しを立てることができ、自分が何を大事にしながら将来の夢を考えていくかを改めて明確にすることができる。2限目によって、自分自身が抱く将来の夢に対する理解を深めるのではないかと考えられる。
3限目・4限目では、実際にドリームマップを作成する。ドリームマップは画用紙に写真や雑誌の切り抜きを貼り、言葉を書き入れていき作成する。まず、画用紙の中心に年齢、将来の夢、キャッチコピーを書いた紙を貼り、その後、写真や雑誌の切り抜きを貼っていく。最後に、マジックペンで言葉や文字を書き入れていく。写真や雑誌は、子ども自身が持ってきたものから、ドリームマップの先生や、担任の先生が準備したものを使用する。言葉は、将来の夢に関わることや、写真など関わることを書き入れていく。ドリームマップを実際に作成することで、2限目に書いた将来の自己像のイメージをより固めていくことができる。
5限目、6限目では、自分の作成したドリームマップの発表し、振り返り、まとめを行う。
5限目では、発表する内容の原稿を書き、それを読み上げる形で発表をする。発表の内容は、ドリームマップに描いた将来の夢、その夢を持った理由、その夢が叶ったらうれしいと感じること、その為に今後の生活でしていくことの4つの内容になっている。発表の原稿を考えるにあたり、自分が将来の夢を持った理由の再確認、その夢を達成したいと思える動機の再確認、自分が今後行っていくことの確認ができるようになっており、発表をすることにより、夢を叶えたいという気持ちを強くさせることができる。発表は、自分のドリームマップを持ち、クラス全体に向けて、下書きに書いた内容を発表する。
6限目は、5限目に引き続き発表を行い、終わり次第振り返りを行う。振り返りは、「今日のドリームマップ授業はどうであったか」「自分の夢を発表してみてどうであったか」といった内容を問う。その後、1限目に行った、自己承認のコップに水をもう一度入れる。自己承認のコップに再度水を入れ直すことによって、このドリームマップ授業を受けて、どのくらい自分のことが好きになったかを測る。この増減は子どもの個人差が大きく、大きく増加する子どももいれば、微増の子ども、逆に減少する子どももいる。しかし、ドリームマップでは、自己と向き合うことについて意義がある為、増減についてはあまり言及せず、日々変化するものとして取り上げる。
5・6時間目では、発表をすることに重きを置き、他者に自分の夢を承認してもらえる気持ちになるものである為、発表したことによる他者からの自分の夢に対する承認と、自分自身に言い聞かせる効果があるだろう。
これらを通し将来の夢を考えることによって、将来の夢を描き、決定していく。つまり、ドリームマップ授業を、将来の夢を決定するプロセスの1つとして扱うことができるだろう。
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