6.学習意欲
ここまで、将来の夢を描くプロセスの例として、ドリームマップ授業を紹介し、ドリームマップ授業によって変化すると考えられる、自己効力感、楽観性、自己認知について述べてきた。しかし、将来の夢を描くことだけでは、将来の夢を成就することはできないだろう。ドリームマップ授業を受講したからといって将来の夢は叶うわけではなく、ドリームマップ授業を受講した後、子ども自身がどれだけ努力を行うかによって、将来の夢は達成される。
さて、その努力において誰もが行うこととして勉強することが挙げられる。ここで,勉強をする意欲である、学習意欲について取り上げたい。林・下山(1993)によると、学習意欲とは多くの物事に対しての興味の中から学習を行うことを目的・目標として本人が学習を行うやる気・意志・気力などを引き起こすものと定義しており、学習意欲の種類を見出す研究を行っている。
学習意欲の研究は様々行われている。ここで、内発的動機づけについて、鹿毛(2013)は「自己目的的な行動の生起、維持発展過程」としており、学習意欲の観点から見た時は、「自己目的的な学習の動機づけ」としている。つまり内発的動機づけは学習意欲の中でも、「学びたい」という学習そのものに対しての意欲についての意欲として捉えることができる。鹿毛・並木(1990)は、子どもの学習における内発的動機づけは評価構造によって影響を受けるかを研究し、相対的な評価の学習を行うと、子どもの不安を煽り、内発的動機づけを低減してしまうなどの結果を示した。永禮(2015)は学習意欲の中でも、どんな目標を持つと学習の仕方が変化するというのかという研究を行い、能力を高めたいなどの目標を持つ学生は今までの理解してきたものとの関連付けによる学習を行うなどの結果を示した。また、真田・浅川・佐々木・貴村(2014)は、児童の学習意欲を学校場面で測定し、学級で受け入れられているという感覚や、学級に適応している感覚、学習についての決まり事などが階層的に学習意欲に関わっていることを見出している。
さて、ここまでドリームマップ授業によって上昇・促進すると考えられる、自己効力感、楽観性について、また、感情的な自己認知について述べてきた。これらと学習意欲の関連を述べていきたい。
自己効力感と学習意欲について、小嶋・柴山(2006)は自己効力感の高い児童ほど、学習への興味関心が高いことを見出している。また、牧野(2013)は大学生の英語学習場面において、高校の授業とは違うデザインで授業を実施したところ、英語に対する自己効力感が向上し、学習意欲が高まったという結果を示している。楽観性と学習意欲について、光浪(2010)はどんな目標を立てていても、楽観的な方略を持つことで学習行動を規定するという結果を見出している。石毛・無藤(2005)はネガティブな心理状態から回復できるという精神の中に楽観性を見出し、受験生に対する支援を行うことで、受験学習への意欲を向上させることができるとした。また、自己評価と学習意欲について、鹿毛・並木(1990)は、児童の自己評価が内発的動機づけを高めることを示している。また、鹿毛(1993)は内発的に学習意欲が低い人は、課題に対して自分がどこまでできたかという到達度評価と組み合わされた自己評価によって内発的動機づけを高めるという結果を示している。
これらのように、ドリームマップ授業による効果によって上昇する諸要素と学習意欲の関連は強いと考えられる。
しかし、ドリームマップを描いた時に規定される学習意欲は、児童の将来の夢に関連する内容においての学習意欲であるだろう。例えば、サッカー選手という夢を持つ子どもが、「学校の勉強をもっと頑張る」というような意欲を見出すとは考えにくい。しかし、学校に通い、学校での授業や宿題などの学習をすることに関しての学習意欲については、ドリームマップ授業によってどの程度促進されるのであろうか。キャリア教育として学校場面との関連を見る必要があるが、ドリームマップ授業を扱った研究はまだほとんどない為、ドリームマップ授業の授業前後において、学校場面における学習意欲がどう変化するのかを検討する必要がある。また、自己効力感、楽観性、自己評価と学習意欲との関連は多く見られているが、真田ら(2014)のように、学校場面での学習意欲に言及した研究は少なく、今後、深めていく必要がある。
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