3. 自己効力感
さて、ドリームマップ授業を受講することで、「自分なら将来の夢を叶えることができる」という思いを抱くことができるが、これは、心理学の概念では自己効力感として扱われる。
自己効力感とは、ある特定の状況に対処をする為に、必要とされている行動を行えるかどうかを、自分自身が知っているかという認知について指すことであり、人がなぜ優越感や劣等感を抱くのかということを説明する概念である(Bandura,1977)。自己効力感が向上することによって、行動をより達成しやすくなったり、より努力をするようになったりする(Bandura & Schunk,1981)。自己効力感の研究は様々行われているが、自己効力感を向上させるものは4つあり、「達成体験」「代理的経験」「言語的説得」「生理的状態」が挙げられる(Bandura,1977)。
達成体験とは、ある特定の状況に対して実際に行動をし、うまく処理できた場合に、「できた」という成功体験を得ることであり、達成体験をすることよって自己効力感を向上させることができる。予想しない行動をすると、失敗してしまった時に自己効力感を低下させてしまい、事前に目標を設定し手順に沿って行動をすると、自己効力感を向上させることができる。つまり、事前の目標設定に沿った行動を行い達成することで、自己効力感の向上させることができる。(Bandura,1977)。
代理的経験とは、自分が行うのではなく、他人の成功体験や、これから自分が行うことについて成功している人を見た時、「自分もできる」と思えるようになることである。特に、自分と近い目標や状況にいる人が成功体験をすると、自己効力感は高まる(Bandura,1977)。
言語的説得とは、自分に対することや目標に対して、周りからの応援や評価、励ましによって、あるいは自分自身の自己暗示などによって、「自分はできる」と思いこむようになることである。特に、自分より立場の上の人に言語的説得をしてもらうことで効果がある(Bandura,1977)。
生理的状態とは、気分が高揚した時などに、気持ちがおおらかになり、「自分ならできる」と思えるようになることである(Bandura,1977)。
さて、ドリームマップによって育成される3つの力は、自己効力感の向上における達成体験と代理的体験、言語的説得によって育まれるのではないか。夢を描く力と夢を信じる力を育むにあたり、ドリームマップ授業では自分のことを知る活動と、自分の将来の自己像について考えるワークを行う。更に、夢を伝える力を育む活動として、自分が描く将来の夢の発表を行う。自分の将来の夢を発表することにより、他者からの承認を得ることができ、「自分の言葉で自分の夢を伝えることができる」というような成功体験も経験することができる。
1・2時間目では、自己認知や将来の自己像についてのワークを行うが、夢を描く力と夢を信じる力についての育成になっている。改めて自分について向き合うことができたということや、自分の性格について向き合うことができたという経験が、達成体験として蓄積されることで、自己効力感の向上に繋がると考えられる。
5・6時間目では、自分の描いた将来の夢の発表を行う。これは、夢を伝える力の育成にあたり、将来の夢を発表することができるという一種の達成体験としても捉えることができる。自分の将来の夢を、クラスメイトや担任に発表をするという体験は、子どもにとっての重要な役割を果たしており、自分の憧れを再確認できるといわれている(富田,2004)。また、他の子どもたちの発表を見ること、つまり他の子どもたちの達成体験を見ることで、「自分も発表ができる」と考え、自己効力感が向上するだろう。
どの時間においても、ドリームマップ受講者は普段の学校生活では行う機会が少ない活動を行い、1つ1つ達成していくことで、達成体験を積み重ねることができる為、自己効力感が向上していくと考えられる。ここから、将来の夢についても「叶えることができる」という思いを抱きやすくなるだろう。
←back/next→