4.集団に対する好感,魅力,活動に関する評価と集団の印象との相関
集団としての「SMAP」および「ももクロ」について,調査対象者において,集団をどのくらい好きか,その好感度については,集団に対する認知を尋ね,その結果を1つの下位尺度とし『調査対象者におけるグループの好感度』とした。調査対象者が集団をどのくらい好きかによって,集団のどのような点が魅力として捉えられているのか,どのような活動が評価されているのか,さらに集団にどのような印象を持っているのかを調べるために,『調査対象者におけるグループの好感度』と集団の魅力,集団の活動の評価,および集団の印象との相関を調べた。
まず「SMAP」において魅力についての項目において因子分析を行った。その結果,『集団凝集性』『役割』『目的目標』『パーソナリティ』『グループメンバーが誠実である』の合計5つの因子として,分析を行うことにした。「ももクロ」については独自に因子分析はせず,「SMAP」の因子分析結果で明らかになった5因子を同様に用いた。
これに関して,戸塚(2017)は誠実性の類似が対人魅力に及ぼす効果の研究の結果において,自分と性格が類似していると思う他者に対しては評価が好意的になりやすい可能性を明らかにしており,誠実性側面における性格の類似が対人魅力に関わっている可能性を示している。そのため本研究でも,誠実さは重要視されていたために4因子すべてに負荷があったと考え,削除せずに1つの尺度として用いた。
4-1.魅力項目と『調査対象者におけるグループの好感度』の関係
認知項目の下位尺度『調査対象者におけるグループの好感度』との尺度間相関を検討した。その結果,「SMAP」,「ももクロ」ともに6つの下位尺度は互いに有意な正の相関を示した。
このことから,集団についての好意や認知度に伴って,集団の魅力に関して肯定的であったり,受容していたり,正当に評価していると推察する。対人魅力の類似性の研究(Byrne & Nelson, 1965; Byrne, Ervin, & Lamberth,1970)で,他者の魅力を評価するとき,類似度が高まるほど,魅力も高くなることが明らかにされており,この作用が,集団に対する認知の際にも用いられていると推察される。
4-2.魅力項目と『調査対象者におけるグループの好感度』の関係における男女差
集団に対する認知における調査対象者の男女の回答の差の比較検討を行うために,各認知項目について平均値の差の検討(t検定)を行った。
その結果「SMAP」においてはすべての項目において男女間の得点差は有意ではなかった。このことから,「SMAP」の魅力について捉えるとき,男女で見ている点にそれほど相違はなく,男女とも同じようなところに魅力を感じているといえる。
とくに「メンバーが個性的なところ」「役割や立ち位置を全うしているところ」「グループメンバーが明るく開放的である」の項目において男女とも得点が高く,メンバーが個性的でそれぞれに魅力があり明るく開放的な集団に対しては,性差に関係なく魅力を感じることが明らかになった。
一方,「ももクロ」では,「団結力が強いところ」(t(118)=-2.14 p<.05)「目的・目標を共有しているところ」(t(118)=-2.31 p<.05)「メンバーが個性的なところ」(t(118)=-2.14 p<.05) (Table27)において,男性より女性の方が有意に高い得点を示していた。
このことから,「ももクロ」に関しては,団結力があることや目的・目標の共有があること,個性があることについて,女性の方が魅力を感じやすいといえる。これに関連して,西浦と大坊(2010)は,同性友人に感じる魅力が関係継続動機に及ぼす影響の研究で,同性友人に感じる魅力は,「安心感」「よい刺激」「誠実さ」「自立性」の4因子構造であることを明らかにしている。本研究における「団結力が強いところ」「目的・目標を共有しているところ」「メンバーが個性的なところ」は,西浦ら(2010)のいう「安心感」「よい刺激」「自立性」に含まれると考えることができ,「誠実さ」は因子として重要な役割をしていることもすでに述べた。すなわち,「ももクロ」に対して女性の方が「団結力が強いところ」「目的・目標を共有しているところ」「メンバーが個性的なところ」を魅力があるととらえるのは,同性に対する対人認知の際に人が「安心感」「よい刺激」「誠実さ」「自立性」を魅力だと感じているためであり,集団認知にも適用されていると推察される。
4-3.魅力項目と『調査対象者におけるグループの好感度』の関係における年齢層間の検討
回答者を年齢層別の2群に分けて,年齢層による差の検討を行うために,認知項目についてt検定を行った。
その結果SMAPにおいては,「仲間意識が強いところ」(t(119)=-2.01 p<.05)において,25歳以下より26歳以上の方が有意に高い得点を示していた。他の項目については,年齢層間の得点差は有意ではなかった。
日本社会において,杉万(2010)は「集団主義−個人主義」をめぐる3つのトレンドと現代日本社会の研究の考察で1960年代から1970年代の高度経済成長期および1980年代のバブル経済の崩壊までの期間には多くの日本人論が登場しており,その中で共通して強調して唱えられていたのが日本人の集団主義であったと述べている。このことから,1960年代から1970年代の高度経済成長期および1980年代のバブル経済の崩壊までの期間に学生生活を送っていた世代やすでに社会人として活躍していた世代は,集団主義の意識が強く残っているのではないかと推察される。本研究では26歳以上を高年齢層として扱っているが50代の調査対象者も多く含まれているため,彼らは育った時代背景から集団主義的意識の方を強く持っており,今回の「仲間意識が強いところ」での得点が高くなったと推察される。しかし,杉万(2010)はバブル経済崩壊後の経済停滞期には集団主義に対する否定的評価が現れて集団主義は時代遅れなものとされ,今度は個人主義に話題が集まるようになったことも同時に述べている。バブル経済崩壊後の経済停滞期に生まれた若い世代は個人主義的意識の方を強く持っていると考えられ,今回の「仲間意識が強いところ」での得点には影響を示さなかったと推察される。総じて,今回の「仲間意識が強いところ」での年齢層による差は,若い世代(25歳以下)と高年齢層(26歳以上)の生きてきた時代背景が影響しているのではないだろうか。
ほかにも「SMAP」は,彼らメンバーの平均年齢が44歳(本稿執筆時点)であるため,若い世代(25歳以下)より,彼らと同世代である26歳以上の高年齢層の方が,得点が高くなった可能性も考えられる。
「ももクロ」においては,「協力し合っているところ」(t(119)=2.16 p<.05)「メンバーが個性的なところ」(t(119)=3.14 p<.05)において, 26歳以上より25歳以下の方が有意に高い得点を示していた。
「SMAP」同様,調査対象者の育った時代背景が影響していることが考えられ,若い同世代(25歳以下)は個人主義的意識を強く持つため「メンバーが個性的なところ」に魅力を感じているとされる結果となったと推察される。また,集団主義的意識として集団としての機能にも魅力は感じているが,「仲間意識が強いところ」という組織機能的な強さではなく「協力し合っているところ」というに有意差があったことから,若い世代はやはり高年齢層よりは集団主義的意識が弱まっていると推察される。また,「ももクロ」はメンバーの平均年齢は,本稿執筆時点で23.6歳であるため,高年齢層(26歳以上)より若い同世代(25歳以下)の方が得点が高くなった可能性も考えられる。
←back/next→