4. 教師の認知




 ここでは,教師は子どもたちをどのように見て指導をしているのか。本研究では,子どもに対する「教師の認知」について取り上げる。

 近藤(1995)は子どもに対する教師の特定の「見方」や「見え方」が教師と子どもの関係をこじらせていくこともあれば,逆に2人の関係を楽しいものに変えていくこともあると述べている。浦野(2001)の研究では,「学級の荒れ」を改善するために教師の子どもへの認知に着目している。その結果,教師自らが子どもへの認知を変えていくことの重要性を認識すると,次第に教師の行動も変わっていき,学級全体が良い方向へと向かったという結果が報告されている。越(2002)は教師によって記述された児童・生徒に対する認知次元と,教師による評価と教師−児童・生徒関係の関係性,それについての教師自身による考察について報告し,教師の児童・生徒認知における一般的な次元を明らかにした。それらの次元とは,「能力がどうであるか」,「物事に対する姿勢や意欲はどうか」,「行動統制が教師にとってとりやすいかあるいは自律的に行動統制がとれているかどうか」,「人間関係に配慮した行動がとれるかどうか」,「基本的生活習慣が身についているかどうか」,「性格としての他者への関わりがどうであるか」,「明るい性格であるかどうか」,「自己を表現し表現できるかどうか」である。そして,学校段階ごとに検討を行い,中学校では,教師は性格的な明るさや優しさよりも,行動としての他者との協調性・他者への配慮を求め,他者を意識し配慮する行動を意図的にできるように求めていた。また,これらの次元において高く評価される児童・生徒に対して,教師は好意的関係を持っていることが示された。

 このように,教師の子ども認知は指導に影響を与えていることが考えられ,教師と子どもとの関係性にも影響すると示唆される。

 太田・石田(2009)は,現職員教師への自由記述を行い,特別な指導や配慮が必要な児童の特徴を7つに分類し,各児童に対する教師の指導行動について検討した。具体的な教師の指導行動として,「今どうするべきか言葉で指導する。」,「ルールを守らないとなぜいけないのか言って聞かせる。」などを挙げている。この研究から,教師によって特別な指導や配慮が必要だと感じる子どもの特徴は異なることがわかる。そしてそれぞれの子どもに対する指導も教師によって違いがあることが考えられる。

 以上のことから,子どもに対する「教師の認知」について考えると,教師によって指導が難しい子どもと捉える視点は,異なる可能性があると考えられる。一人の子どもを取り上げる際に,ある教師にとっては指導が難しい子どもであっても,別の教師にとっては指導が難しい子どもとは限らないかもしれない。本研究では,子どもに対する「教師の認知」に着目して,教師によって指導が難しい子どもと捉える視点は異なるのか検討していく。 



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